‡REBORN‡

□自己完結
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もう真夜中近いのに、どこからか自分以外の立てる物音が聞こえてきた。
白蘭は訝しく思い、デスクから離れて廊下へとでてみることにする。
彼を感知して灯りがともるが、それ以外の光がどこかの部屋から漏れてくる様子もなく、また、人の気配も感じられなかった。

―気のせいだったのかな。

そんな筈はないと思うのだが。

―まぁ、いいや。

白蘭は息を吐いた。
なんだか萎えてしまった。
今日はここまでにしてもう帰ろうかな、と部屋に戻る。
と、窓の外に見える向かいのビルが光った。

―?

興味をそそられて近寄ってみる。
あちらで誰かが電気をつけたのかと思ったがそうではなかった。
どうも、こちらのビルの灯りが反射しているようなのだ。
窓を開けて下を覗きこんでみれば、ちょうど下の部屋のようだった。
帰るついでに見ていこうかな、と思った。
特に意味もないほんの気まぐれ。





階段を下りて正面の部屋。
白蘭はドアと床との隙間から光が漏れているのを確認してから、開けようと手を伸ばした。
その時だった。
ちょうど向こうからドアを開けられて、ぶつかりそうになる。

「おっと」

向こうも人がいることに気がついたのか

「す、すみません」

と謝ってくる。
少し避けてやれば男はそのわずかにできた細い隙間からでてきた。
直後その後ろでばたんとドアがしまった。
彼の表情は何故だか、しまった、というようなものに変わる。
白蘭が視線を送り続ければはっとしたようにようやくこちらに焦点を合わせた。
何を思ったか、ぺこりと頭をさげてくる。
ただでさえ、男は小柄なのに、そんな風にされてはこのまま彼の柔らかそうな髪に顔をうずめることもできてしまえそうだ。
そんなことを思っていると、パッと顔があげられた。
知らず彼の方にかがみ込みそうなっていたらしく、思ったことが現実になってしまいそうだった。

―あぶな。

なんとかその手前で静止する。

「ヒバリさんに用ですか?」

彼は首を傾げてきた。
見上げてくるその顔には思いの外、色気があって

―あぁ、ヤバい。

と思った。
相手が男であるとかなんとかは関係なしにこちらをぞくりとさせるような魅力があったのだ。
淫らな、なんて言葉がしっくりくるような表情だった。

―目、かな?

引き込まれそうだ。
大きくて、澄んでいて。
ふっくらとした唇も柔らかそうで、男な筈なのに違和感はなかった。
可愛らしく顔に収まっている。

「あの……?」

凝視してくる白蘭に気まずくなったのか声をかけてくる。
そうだった。
質問されていたんだっけ。
誰かいるみたいだったから見に来たんだよ、と言うのも面倒くさくて

「そうだよ」

と適当に返事した。

「そうなんですか。……お疲れ様です」

彼は再度頭を下げた。
彼の方は鞄を手にしていて、今から帰宅しようとしているところのようだった。
エレベーターホールへと歩いていく彼に何か一言いってやりたくて

「服、ちゃんと直した方がいいと思うよ」

と忠告した。
振り向いた彼の頬がカッと染まっているのを見てなんだか楽しくなった。
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