‡REBORN‡

□自己完結
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彼が乗っていってしまったエレベーターが上に戻ってくるのを待つ。

―あれが、ね。

先ほど出会った男のことを気がついたら思い返していた。
白蘭は彼のことを知っていた。
といっても、お互いに面識などなく今までにすれ違った記憶すらない。
けれども、彼の顔を一目見れば“沢田綱吉”だと分かった。
入社当時から彼の存在は有名だったのだ。
現社長そっくりな新入社員がいる、と。
まもなく綱吉がただ似ているだけではなく、その親戚であることも知れ渡った。
それにしても、と白蘭は脳裏に社長と綱吉とを描く。
たしかに造作は似ているかもしれないが、綱吉の方が遥かに脆弱そうだった。
可愛いなんて表現がしっくりくるような。

―それにしても

白蘭は時計を見る。
彼もこんな時間まで残業とは御苦労なことだ。
社長の親戚だというくらいなのだから社内でも優遇されているであろうに。
残業、と自分で思って違和感を覚える。
綱吉の乱れた服装といい艶めかしささえ感じさせた表情といい、まるでセックスでもしたあとのようだったからだ。
しかし、部屋には雲雀がいると言っていたし、それはないだろうと思うのだが……。
なんだか気になった。





月曜日。
白蘭は仕事は済ませてあったがもう少し社内に残ることにした。
また彼に出くわさないか、と自分は期待しているらしいと気がつかされて苦笑いしたくなった。
けれども、いつまでたっても彼はロビーに降りてこなかった。
嫌な予感を拭えずにこのまえ綱吉のでてきた部屋に行ってみれば既に誰もいなかった。
とっくに帰ってしまっていたらしい。
自分はいったい何をしていたんだ、と自嘲した。





それでも、一度興味を持ってしまったものはなかなかやめられなかった。
あの日のように彼の帰りが遅くなることはないかと待ってしまう。
そして、とうとうその日はやってきた。
先日の出来事から丁度一週間が経過した金曜日のことだった。





一階のロビーで彼が出てくるのを待つ。
もはや日課になりつつある行為だった。
その特異性やらなんやらは白蘭にとってはどうでもいいこと。
自販機で買ったコーヒーが無くなる頃にはいつも降りてくるのに今日はまだ綱吉は来ない。
だいたい定時退社をしている彼なのに珍しい。
もしかして、と思った。





もうしばらく待っても未だ降りてこないから白蘭は上に戻ってみることにした。
人通りの少なくなってきた社内を上へ、上へ。
目的のフロアにはすでに静まり返っていたけれど、一室からのみ光が漏れていた。
間違いない、と確信した。
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