‡REBORN‡

□贖罪
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呼び出された場所は廃屋。
現在時刻、午前零時五分前。
いかにも、なシチュエーションすぎて綱吉は失笑したくなった。
そのうえ“ボス一人でお越し下さい”だと。
呼び出しの電話で睦言でも囁くように声を落として紡がれた言葉。
思い出して唇を歪めた。
もう何があってもおかしくない。
自分の靴音だけが寂れた路地に響く。頭上には満月。
独りでその光を浴びているのがもったいなくなるような美しさだ。
ふと、足を止めて手をかざしてみたくなった。
特に意味はない。
指の間を漏れてくる月光に、何故だか愛すべき仲間……ファミリーを思い出してその光ごときゅっと握りしめた。
彼らのためにも必ずこの取引を成功させなくてはならないのだ、と綱吉は思う。
“イエナ”と蔑まれる彼らを相手に。イエナ、つまりはハイエナのごとく他人の餌に手を出しては喰らい尽くしていくのだと揶揄される悪名高き組織。

――いざとなったら、

全てを灰と化してしまえばいいか。
綺麗な琥珀色はその奥にぞっとするほど暗い光を宿らせていた。



扉を引けば、ギギッと軋む嫌な音がした。
随分と古い建物を指定してきたものだと思う。
人の気配や殺気は感じられない。
入った瞬間に蜂の巣、なんて洒落にならないこともあるかもしれない、と思っていたが、幸いにしてこちらの話を聞く気はあるらしい。
カサ、と足元を鼠がすり抜けて月明かりから逃れるかのように奥へと走っていく。
もしかしてオレを案内してくれるつもりなのかな、などと場違いにも可愛らしいことを考えてしまう綱吉。
未だマフィアになりきれないと家庭教師に笑われるのにはその辺りに理由がある。
もちろん、そんなことはなくて、綱吉が少しついて行ったところで鼠は壁の割れ目へと潜りこんでしまった。
そこからは独りだ。

――気味が悪い。

ひび割れた壁に自分の足跡やら息遣いが跳ね返って何重にも聞こえる。
それなのにやはり、しんとしていることが少しばかり怖い。
廊下を歩き続けると、ようやく綱吉の前に扉が現れた。
習慣的にその奥にある気配を察知しようと、感覚を研ぎ澄ませる。
訓練の成果か、超直感のなせる技か。
綱吉は手にとるようにその手のもの――特に敵の気配など――を感じとることができた。

――ここにもいない?

少なくとも人間の気配は感じられなかった。
罠が仕掛けられているようだ、と超直感が警鐘を鳴らすこともない。
綱吉は思い切りその扉を開いた。
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