‡REBORN‡

□夢現
2ページ/23ページ


広場へと足を踏み入れてまもなく、雲雀はこちらの道を選んだことを後悔し始めていた。
どこからともなく聞こえてくる行為の最中の嬌声、物音。
鼓膜を震わせてくるそれらに自分が汚されていくような感覚を味わう。
不愉快だった。
抜け出すことばかりを考えて、ひたすらに歩き続ける。
そろそろ広場の端にたどり着きそうなのが分かって雲雀は思わず息を吐いた。
その時だった。

「ぁ、やっ……」

自分に投げかけられた言葉のように、それは鮮明に聴こえた。

――!?

声とさえ呼べないような夜に紛れてしまいそうな微かなもの。
が、それはたしかに雲雀が嫌悪していた快楽に酔う声だった。
けれど、同時にそれは雲雀を惹きつけるには十分すぎる可愛らしく甘い音で。
それが恐らく鬱蒼と茂る木々の陰から聞こえてきているであろうことも分かった。
勿論、雲雀には覗く趣味はない。
それに、その持ち主を見てはならないと本能が警鐘を鳴らしていた。
闇に呑まれてしまう、と。
それでも、広場を抜ける最後の一瞬、そちらを見てしまった。
一組の影があった。
月光に煌めく黄金のような色の髪。
それは顔を隠すように乱れていたけれど、恍惚したように薄く開かれた唇は見えた。
口付けでも交わしたのかいやらしく濡れて、てらてらと光っている。
不自然な程にその脚は持ち上げられていて、その腿にうずめるようにもう一つの人影の男は口付けていた。
さらけ出された下肢は闇に侵触されることなくあくまで白い。

「は、ぁ……ぅっ」

鼓膜から脳髄を犯すような音が再び紡がれる。
男の口付けていたそこから紅が生まれて、つっと脚を伝った。
男はその血に舌を這わせ舐める。この距離では聴こえるはずもないのに、じゅ、とすすり上げる音を聞いたような気がした。
彼らはお互いその行為に没頭しているようで雲雀の存在には気が付きもしない。
そのまま、さらなる行為におよぼうと男はその唇を陰部へと下ろしていった。
雲雀はそこでようやく、は、とした。
夢中、まさしく夢の中にいるみたいだった。魅入られていた。
完全に止まっていた歩みを進める。
それでも、去り際にやはりそちらに目をやってしまった。
ちょうどよがるように身体をしならせた華奢な体躯が見えた。
覆うようにかかっていた髪の下からその瞳が覗く。
大きな宝玉のような琥珀色。月よりも澄んで見えた。
それが自分を捉えたような気がしたのは雲雀のただの願望に過ぎない。
自分でも、そのことはよく分かっていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ