‡REBORN‡

□Conquest
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「早く」

綱吉は囁く。
紡ぐ言葉は知らず知らずの内に小さく、押さえ込んだものになる。
遅かれ早かれ追っ手に見つかることは分かっているが少しでもその時を先延ばしにしたかった。
王宮の裏口は狭い。初代国王が有事に備えて造ったのだという。
どこに繋がっているのか。
綱吉は知らないが、今、最優先するべきことは大切な国王を護ることだ。
とにかく彼が逃げられさえすれば良い。

「早くお逃げ下さい、恭弥様」

必死に言い募っても、目の前の少年は動こうとしない。漆黒の双眸はこちらに向けられたまま。
歳は十になったばかり。綱吉の半分よりも幼い。
けれど、彼の向ける視線は綱吉を怯ませるには十分すぎる程に鋭く、威圧的だ。
綱吉はその眼差しに息を飲む。
いったいこの幼い国王のどこに力は潜んでいるのだろう。
父王を失ったばかり。即位してからまだ半年と経たないのに、恭弥はたしかにこの国の王に相応しい力があった。
絶対にこの命を絶たせるようなことがあってはならない。綱吉は一層強く思う。
そのために自分は生きてきたのだ。断言できる。
恭弥の言葉も願いも聞かずに無理矢理亡命の道を選ばせた綱吉は酷い家臣だと思われるかもしれない。
それはひどく辛い。
けれど、綱吉は彼に嫌われようと憎まれようと、いかなる手段を使ってでも彼を助けなくてはならないのだ。
彼の命は新興の隣国になど絶たれて良いものではない。

「恭弥様」

目を逸らしたら負けだ。
綱吉はじ、と見つめ返す。
君を置いては行けない。なんて綺麗事も、一緒に死んであげる。なんて優しい言葉も欲しくない。
恭弥は綱吉のことなど捨てて早くここを去るべきなのだ。

「お願いです。恭弥様」

「……綱吉も一緒に来てくれるなら、」

――考えてやらなくもないよ。

国王は言う。相変わらずこちらに視線を向けたまま。
その言葉は横暴なようでいて、やはり優しい。
恭弥とて綱吉と共に逃げることになんの利点もないことくらい気が付いている筈なのに。
それでも恭弥は綱吉を案じてくれるのだ。
嬉しくなかった。そう言えば嘘になる。
でも。

「いけません」

綱吉は首を振った。
それでは逃げられない。
綱吉が彼らを食い止め時間を作らなければ、恭弥は殺されてしまう。
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