‡REBORN‡
□Conquest
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「恭弥様。あなたはあなただけのものではないのです」
国王。それは国民のものだ。
このままこの国が帝国に侵略されたとしても、不安に陥る国民にとって彼はまだ生きているという事実は希望になりうるだろう。
だから、恭弥は決して失われてはならない。
彼が生きていれば、王の血があれば、この王国はいつでも取り戻せるのだ。
帝国に支配されたところで、それは上辺だけのことに過ぎない。
綱吉はそっと恭弥のもとにしゃがみ込み、その手を取った。
人に触れられることを嫌う少年王だが、綱吉にだけはその行為を許してくれるのだ。
今もそうだ。
恭弥は抗わない。
「あなたは国民の希望です」
綱吉は顔を俯け、その指先に唇を落とす。
そうしながら、上目遣いに彼を見やると、こちらを見下ろしている彼と目が合った。
何を想うのだろう?
綺麗な漆黒。その奥を覗けはしないかと見つめた。
分からない。
「必ず生きていて下さい」
綱吉はそっと微笑みかける。
今、自分は残酷なことをしているのかもしれない。少し思う。
けれど、きっと彼になら堪えられる筈。
「あなたが生きているということ自体が何にも代え難い価値なのです」
心からの言葉だった。
「……それは、君にとっても?」
「え?」
「君にとっても、そうなの?」
綱吉に注がれるその視線はあくまで真摯だ。
嘘などついたところですぐに見抜かれてしまうだろう。
綱吉は頬を緩めた。
こんな非常時なのに、いつもと変わらない国王が愛しかった。
「もちろんです。我が主」
先にお行き下さい。必ず、オレもあなたを追って生き延びます。また会えます。
オレを信じて下さい。
散々ここに至るまで嘘を並べてきてしまったけれど、この言葉だけは本当だ。
綱吉は彼の足元に跪いたままの体勢から身体を起こした。
「……綱吉」
「さぁ、早く」
綱吉は急かす。
まだ、背後からは何の物音も聞こえないけれど、帝国の人間が近付いてきているのはたしかだった。
彼らは国王の命を絶とうと必死だ。征服した後、気掛かりになる存在は消しておかなくてはならない、とそういうことだろう。
恭弥が王の血を引くものでなかったならば。綱吉は思わずにいられない。
そうすれば、このような目に遭わずに済んだのに。
目立たないよう薄汚れた衣装を纏ってもなお損なわれない気品。彼が日陰のまま生きるなんて有り得ない。
いけない。必ず彼を護らなくては。
「綱吉」
「……なんですか」
「絶対、僕は君を離さない」
必ず、生きて会おう。とそういうことだろうか。
「分かってます」
綱吉はまた微笑む。
彼に大人は嘘つきだということを教えるのはきっと自分に違いない。
思うとなんだか泣きたくなった。