‡REBORN‡

□窮屈な愛情
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ごく当たり前の、金曜日だった。特別な行事もなく、放課後煩わされることもない。骸はすぐに学校を出た。
骸は家へと急いでいた。早く綱吉に会いたかった。
今日から明日にかけて会社で集まりがあるのだと両親は言っていたから、今、家には彼しかいないはず。嬉しい。今日は自分と彼の二人きり、だなんて。
きっと、綱吉は今頃夕食を作って待ってくれているに違いなかった。家から、あまり出なくなってしまった彼を思うと胸が苦しくなるけれど、彼にお帰りと言ってもらえるとそれだけで幸せな気分になれるのだ。
新興住宅地の中のありふれた一軒が、骸たちの家だった。父は、母が言うには良い会社の、それなりの地位にいるらしいけれど、家庭に収入を投資する気はないらしく、生活は辛うじて一般水準を満たしているかどうかというところ。裕福だとは言い難い。母はそれに文句を言わないし、おそらく父を非難することすら思いつかないに違いなかった。
鍵を取り出し、ドアを開ける。

「ただいま戻りました」

返事はない。いつもなら、兄の作る食事の良い匂いがするのだが、それもない。
しん、と静まり返っている。
兄である綱吉の、近所行きのサンダルは玄関に置かれているし、いないというわけではないはず。

「……お兄様?」

骸は廊下にあがった。一つ、右に折れた先のリビングに明かりが点っているのがドアのガラス越しに見えて、そちらへと向かう。

「どうしたんですか?」

ドアを開ける。
リビングの入ってすぐのソファーに、綱吉は座り込んでいた。羽織る上着は大きさが合わず、ぶかぶかで、余った袖に手まで隠れてしまっている。だらりと下がったその右手の先には受話器が転がっていた。綱吉の瞳は呆然と宙を向いていた。

「お兄様」

骸は綱吉に駆け寄る。綱吉ははっとしたように焦点を骸に合わせた。

「おかえり、骸」

柔らかに彼は微笑んだ。しかし、琥珀の双眸は動揺を隠し切れておらず、不安に揺れている。

「何があったんです?」

骸は綱吉の瞳の高さに合わせ、床にしゃがみこんだ。今すぐにでも、抱きしめてしまいたかったけれど、それはもう少し後でいい。そう自分を落ち着ける。
彼は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
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