‡REBORN‡

□窮屈な愛情
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「さっき、電話があって、」

唇は言葉を紡ごうとわななく。兄の唇の紅さは噛み付きたくなるほどに甘い色をしていた。骸は浮かんだ欲望を堪え、案ずるような表情を造ってみせる。
大丈夫ですよ、お兄様。骸はそっと囁いた。
綱吉は首を振る。

「交通事故で、母さんとあの人が……」

そこまで喋ったところで、彼はそれ以上言葉を紡ぐことができなくなったようだった。涙が瞳から溢れ、言葉は嗚咽に紛れる。
骸は咄嗟に彼を抱きしめていた。我慢はもうできなかった。突然乗り上げたせいで安物のソファーは軋んで沈む。
自分の腕の中に収まってしまった兄を可愛いと思った。顔を埋め、肩を震わせる。骸はその背を撫でてやった。
綱吉の反応と先程の言葉で何が起きたのかは大体分かっていた。頬が緩みそうになるのを堪えるのが、辛い。
嗚咽混じりに綱吉が語るには、会社の主催するパーティーに出席する予定だった彼らはその行きに交通事故に巻き込まれたらしい。両親の乗っていた車がトラックに追突され、即死だったという。
おおよそ、骸の想像していた通りだった。

「……どうして、泣く必要があるんですか」

綱吉が泣いていたから堪えていたけれど、こんな喜ばしいことはない。今すぐにでも笑い出したい気分だった。

「骸、おまえ」

「あの人たちが生きていて、良かったことなんて、何一つ無かったじゃないですか」

綱吉はびく、と震えた。

「お母様が僕たちを助けてくれたことなんて、ありましたか?」

いつでも父の顔色を窺うばかりで、自分を守ることにばかり必死で。苦しませるために骸たちをこの世に産み落としたのだとしか思えない。

「あの男に至っては、」

「もう、いい。骸」

骸の肩に埋めていた顔を上げ、綱吉は珍しく尖った声を出した。それが、父を庇っているように思えて、骸は苛とした。

「お兄様を傷付けていただけだ」

苛立ちのままに言葉を吐いていた。
沈黙が下りる。骸は初めて、自分が語気を荒げていたことに気が付き、口を噤んだ。

「……すみません」

ううん。綱吉は首を振る。ただでさえ華奢なのに、また、さらに痩せてしまった。服から覗く首筋は折れてしまいそうだ。これも、全て、あの男のせいなのに。
当然の断罪だと思った。交通事故で彼らが死んで、ようやく自由になったとさえ思った。

「お兄様は……、優しいんですね」

あんな人たちのために涙を流してやるなんて。

「だって……ずっと育ててもらってきたんだよ?」

当たり前のように同じ家に暮らして、言葉を交わしてきた相手がもう二度と戻らないなんて。綱吉の頬を、また、涙が濡らしていく。あぁ、この人はなんて綺麗に泣くのだろう。
骸は綱吉の背をさすりながら、うっとりと幸福感に浸った。もう、あの父も母もいない。これからは、兄と自分の二人きりで暮らしていくのだ。
彼はまた、学校に通うようになるのだろうか?まだ中学生の自分は彼と同じ学校ではない。しかし、家は一緒に出られる。並んで歩く様を想像するだけで、骸は幸せになれた。

「骸、オレ、どうしたら」

震える声で呟く。
彼はきっと、自分は兄なのだから、しっかりしなくてはいけないのだとか何とか自分に言い聞かせているに違いなかった。その、抑えきれなかった感情が惑う言葉として顕れる。なんて、優しいひと。

「僕がいます」

骸はきつく、綱吉を抱きしめた。
このままでいい。他には何もいらない。
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