*他愛ない君との時間*

□volume:6
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7月7日。

七夕の日に空に願いを馳せるだなんて馬鹿げた行事、
一体誰が考えたんだか。

ただ紙切れに願いを乗せて飾り付けるだけで全てを叶えてくれるような存在が本当にあったとしたら、
きっと今頃世界は消えて無くなっていたに違いない。


世の中、
くだらない欲が多すぎるんだ。

欲しいモノが一つ手に入れば、
それだけで充分じゃないかと僕は思う。



例えばそれは……───








なんて思いながら見つめるのはさっきから目の前でせわしなく動いてる小さな背中。
応接室の天井では高さが足りないらしい馬鹿でかさでこうべを垂れる笹に色とりどりの短冊を吊している彼女は今日もまた、
くだらないイベント事にご執心だ。



「それ、全部君のなの?」



何の曲かも解らない音痴な鼻歌を奏でながら、
分厚く束ねられた紙切れを一枚一枚楽し気に笹の葉先へと結んでいた彼女に背後から声をかける。
その手に持つ紙切れ全部が願い事の書かれた短冊なんだとしたら、
きっと君は世界中でも5本の指に数えられるくらいに強欲だよ。



満面の笑みで振り返った彼女はいつも以上に上機嫌。

本当に、
どうして女子ってやつは…
否、
君って馬鹿はこうもイベント事が好きなんだか。

何かあるごとにいちいち騒がれて、
いちいち応接室を散らかされるのもいい加減迷惑なんだけど。



「はい!願い事、
沢山あるんです♪」



馬鹿だね。

心の中でボソリと呟く。

まさかとは思っていたけど、
大体わかってはいたけれど、
そのふざけた量には呆れることしかできない。
だってざっと数えても百枚は下らないんじゃない?それ。

全く、
僕の応接室に唯一出入りすることを許されて、
唯一傍にいさせてやってるっていうのに、

これ以上何を望むことがあるのやら。


なんて考えは少し傲慢かな?

だってこんな特別扱い、
君以外にはしてやらないんだからそう思いたくもなる。



「あ、雲雀さんも書きます?願い事」



ムスッと軽く唇を尖らす僕の様子なんて視界に入っていない馬鹿な上に視野まで狭い君に差し出されたひまわり色の紙切れとボールペン。

本当に馬鹿だね、
僕がこういうの嫌いだって知らないわけでもあるまいし。



「いらないよ、
別に願い事なんてないしね」



くだらない欲なんてない。

ただ強いて言うなら欲しいものは一つある。

けど、
こんなイベントに便乗して願掛けするつもりなんてさらさらない。
欲しいものは自分で掴み取るものだ。
ほら、
僕がこの学校や並盛そのものを力で手に入れてきたみたいにね。



「無いんですか?!願い事?!私なんか数え切れないくらいあるっていうのに……」



ひぃふぅと、
指折り数えて宙を見上げた彼女を後目に、
既に葉先へリボンで結び付けられていた短冊に目をやる。
相変わらず下手くそな字が恥ずかしげもなく並べられていて思わず頬が綻びた。
端から見れば小学校低学年の子が書いたものに見えても仕方のない笑える出来栄え。
まぁ、
それでもそれが彼女らしさかと困った溜め息を吐くに止まるだけの僕は、
相当彼女に甘いらしい。

そんな自分にほとほと呆れるよ。

なんて自嘲的な笑みが浮かぶのをこらえながら、
拙く読み辛い文字を目で追う。




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