雲雀短編

□退屈と、非平凡
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「そ……その………退屈…だった…ので………」



その一言を言うのに、
どれだけ時間がかかっただろう。
正直に答える勇気が出なくて、
めった撃ちにされる覚悟が出来なくて、
長い沈黙が酷く息苦しかった。

そんな私をただ黙って見詰めながら答えを待っていた彼は、
“退屈”の言葉に待ちわびたように微笑んだ。



「ワォ、僕の学校の授業が退屈だなんてね」

「……す…スミマセン…ですから今…戻りま…───」

「そんなつまらない授業をしてるのは何て教師だい?」

「……へ…いや……」



そんなつもりで言ったわけではなかったけれど、
後で咬み殺さなきゃなんて恐ろしいことを楽しげに言う彼のその矛先が私から逸れたことには少しだけホッとした。


だけどそんな僅かな安らぎも、
束の間のこと。


制裁を加える標的から外されたのかと思ったのに、
その視線は未だ私を捉えたままだし、
必要以上の近距離も変わりはしない。


もう話は済んだんじゃないのかなと、
まだこんな風にしてる必要があるのかなと、
この状況から解放されることだけを強く願った。



「……あ…あの……」



どこを見ていればいいのかわからなくて目が泳ぐ。

まだ結構な大きさのキャンディを呑み込んでしまわないようにと口の中を行き来させると、
緊張に渇いた舌に甘さがやけに染みた気がした。






それが最後に感じた、
さくらんぼ味のキャンディの存在。










「ねぇ、さっきから気になってたんだけど」

「……え……?」








ガシャンと後頭部がフェンスにぶつかる音がして、



フッと、
視界の全てが今まで以上に彼でいっぱいになって、



何が起こったのが理解するのにだいぶ時間がかかった。






唇に触れた温かな何か。





私の口内を探るように這い回る何か。





舌を絡め取られてしまうような感覚。





酸素が足りなくなってこぼれた、





「…………んっ…」





おかしな声。










それがまだ経験したことのないキスってものだとわかったのは、
もうすっかりその行為に心奪われてしまった後だった。






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