雲雀短編

□それが恋だと気付くまで
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春の訪れを告げるような暖かな日差しが降り注ぐ朝。


昨日までの寒さが嘘だったみたいに暖くなって、
厚ぼったかったコートもいらなくなり、
足取りも軽く穏やかな空気の中登校するのはもう数ヶ月ぶり。



なんだか今日はいいことでもありそう。




なんて、

陽気に気分も高揚してそんなことを思った矢先、
目の前に広がる光景に軽かった足取りは突如足枷を嵌められたみたいに、
ガクリと重たくなった。








「うわっ………あれって風紀委員だよね…?」



数メートル先に見える校門辺りをうろつく黒い姿。
遠目にでも分かる長ランに、
どうやって作ってるのかと頭を傾げたくなるリーゼント。

そういえば今日から校則違反取り締まり強化月間なんていうのが始まるとか始まらないとか、
そんなのを聞いた気がする。


朝っぱらからあんなのにじろじろ睨まれるなんて本当勘弁して欲しいのに。

せっかくの気持ちいい朝が台無しだ。


大体私は違反なんてものとはまるで無縁で、
自分で言うのもなんだけどチェックされる必要なんて微塵も無いような模範的生徒なのに、
それでもあの人達は穴が開くほどに睨み付けて来るから嫌になる。


違反なんてしてなくても何かしら難癖をつけようとするあら探しに、
みんなどれほど嫌な思いをしてるか知れない。


風紀を乱してるのは本当はそっちなんじゃないのかな(大体学ランは校則違反じゃないの?)、


………といつも心の中で思う。



「……おはようございます…」

「………………」



それでもそのおっかない視線に止まれば、
返ってこないと分かっていながらも威圧の塊に挨拶しないわけにはいかない。

数人のリーゼントの鋭い視線をくぐり抜けると、
校門を入った所に一際大きなリーゼント…
じゃなくて一際大きな体をした草壁さんがいた。


「……おはようございます…」

「あぁ」


いつも思うけど、
この人は他の風紀委員とは少し違う雰囲気を持ってると思う。

おっかないけど、
常識的なとこもあって、
挨拶だって大体返してくれる。

違反者の取り締まりもこの人一人でやってくれてたら、
この朝の重たい空気もいくらかは軽くなると思うんだけど。

大人数での無言の圧力は、
風紀委員会の権力を告示させるためだけの嫌がらせみたいなものだ。



まぁそれもこれも全部、


あの風紀委員長のやり方なんだろうけど。








溜め息混じりにその権力の中をくぐり抜け終わる頃、
突如ゾクリと背筋が震えた。



あぁこの感覚、

何度か味わったことがある。

目には見えない緊張感とか、

そこから発せられる静かな殺気。


近くに来ただけで脚が竦む特殊なオーラを放つのはそう、





今まさに私の頭の中を占拠していた風紀委員長、



雲雀恭弥。






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