雲雀短編

□手を伸ばせばすぐそこに
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「……やっぱりただの馬鹿面じゃない」




クスクスとまた小さく笑う意地の悪い恋人の台詞に、
ほっぺたは更に熱くなりながらも、
唇は尖った。


可愛い、
なんて彼が言うには似つかわしくない言葉を期待した試しはない。
だけど、
可愛いと言われないのと、
可愛いく無いと言われるのとは大きく違う気がする。



わかってる、
自分に魅力がないことくらい。




でもわからない、
どうしてそんな私をあなたはそばに置いてくれるのか。



あなたはそれを、
良く見えていないからだと言ったけれど、
それは言葉を変えれば誰でもいいってことじゃないのかな?



募る想いを寄せるのは、

いつだって私だけ。



あなたはそういう感情すら本当は初めから持っていないんじゃないかって何度も思った。


けど、

何の用事が無くても、

例え授業時間だとしても、

傍にいろと、


あなたは言う。




一緒にいたって、
何をするわけでもない。

手だって、
握ったこともない。


あなたが私に触れるのは、
お仕置きと称して、
軽い痛みを与える時だけ。


それがもどかしいとか、
寂しいとか、


そんなことを思ったことはない。


多分、
思っちゃいけない。


その声が聞けるだけで、
その視線が私に向くだけで、
私の心は満たされる。


満たされてなきゃいけない。



ないものねだりが通用する相手だんて、

思っていない。



こうしていられることに幸せを見いだせなければ、

欲深くなってしまえば、

終わってしまう。

そんな気がする。




それでも傍にはいたいから、

あなたの特別でいたいからここにいるのに、

そんな言い方をされれば、
傷ついたりはしないと自分にいくら言い聞かせたって、
泣きたくもなると思う。





じんわりと瞳を濡らす水滴が、
離れれば見えなくなってくれるならと、
詰め寄る彼が支配する領域から逃れようと後ずさる。

僅かに距離を置けばまた、
目が悪いという彼とは逆に近すぎてぼやけていた視界が鮮明に彼を捉えた。
相変わらず、
飄々として余裕に満ちた顔。

何がおかしくて笑ってられるのか、
理解出来ない。

こんなにふてくされた顔をした涙目の恋人を目の前にしてその表情とか、
サディストにも程がある。


なんて思いながら視線を逸らすと、




「……けど、」

「…わっ……──」






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