ファミリー短編

□目測およそ3メートル(獄寺)
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冬が近い。
家路を歩く夜道で吐き出した二酸化窒素は、
白い煙りに姿を変えた。

それはまだ味わったこともない煙草の煙りに良く似ていて、
ごく自然に彼の姿を思い浮かばせた。

中学生のくせに、
校内でも堂々といつもくわえ煙草をして歩く、
獄寺隼人。

一度も伝えたことはないけれど、
私が初めて恋をした、大好きな人。

今日は何度アホ女と叫ばれたっけ。
今日は何度目が合って、逸らされたっけ。
今日は何度君が好きだとテレパシーを送ったっけ。

そんなことを思いながら、
ふと立ち止まって空を見上げた。
満点の星空。
画用紙を真っ黒に塗りつぶして、そこに金平糖を散りばめたみたいな、
なんてことない簡単な一枚の大きな絵をただ貼り付けたみたいな光景。

けど、
手を伸ばせば届きそうな距離にあるように見えて、
金平糖は計り知れないほど遠くにある。

それは私と彼との間にある、
物体同士の距離とは違う、
目に見えない心とか気持ちとか、
そういうものの距離に良く似ている。

どんなに足掻いても、
きっと君に追いつける日はこない。
君の目にはいつだってツナ君しか映っていないんだ。
それはきっと恋愛感情とか友情とかそんな簡単な言葉で言い表せることのできない深い親愛。
恋なんてしてる暇無い、
君の背中はいつだってそう言ってるように見えた。

わかってはいるけれど、
それでも私は君が好きなんだよ。
もぅ、どうしようもないくらい。

胸の中で独り言のように呟いて、
吐き出した溜め息はまた白く濁った。


明日は何と言って怒らせよう。

──アホ女なんて酷い呼び方でも、君に呼ばれるだけで私は目眩がするほど幸せなんだよ?

明日はどうやって私を見てもらおう。

──用もなく名前を呼んで苛立ちながら振り向く君と視線がぶつかるだけで、私の胸は破裂したみたいに苦しくなるんだよ?

明日はどうやって、この気持ちに気付かせよう。

──好きなんて、単刀直入に言えたらいいのに。

私は素直じゃないんだよ。


遥か彼方まで広がる空を仰いで、
叶わぬ恋に想いを馳せる。

始まることもなければ、
終わってくれることもないこの恋にまた、

脚をとられて、沈んでく。

深く深く、どこまでも。

息が出来ないくらい苦しくて、
もがいてももがいても這い上がれない、
出口の見えない底無しの想いに飲み込まれて。

こんなにもこんなにも苦しいのに私は、
恋をすることをやめられない。

苦しくても好きなんだ。
届かなくたって好きなんだ。

ただ君が、好きなんだ。







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