ファミリー短編

□目測およそ3メートル(獄寺)
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「おい、アホ女」


ボゥっと立ち竦んでいると、
不意に後ろから、
いつも耳を澄ませて雑音の中からそれだけを聞き分ける技まで身に付けた大好きな声がして、
ゆっくりと振り返った。
暗闇に栄える銀色。
つまらなそうにした顔が、
私を見下ろしていた。


「……獄寺…何してんの?こんな所で…」

「あぁ?そりゃこっちの台詞だろ!こんな時間に何やってんだアホ女!」


心臓が、
破裂しちゃったみたいに痛い。
動揺が顔に表れてなきゃいいと思ったけど、
多分無理だ。
たった今想いを馳せていた人に、
まるで見計らったみたいなこんなタイミングで出会ってしまうなんて。
なんだかわけもわからず涙すら出てしまいそうだ。
ジンと目の奥が熱くなってしまうのを唇を噛んでこらえる。
心はどこまでも遠く離れてるはずなのに、
どうして君はこんなにもそばにいるんだろう。
どうしてこんな暗闇の中で、
ちっぽけな私なんかを見つけ出してくれるんだろう。


「……星、見てたの……」

「はぁ?んなもん家帰ってから見やがれ!女が夜独り歩きするなんざ危ねーだろ」

「…何それ…心配してくれてんの?」

「なっ、馬鹿か!てめーみてーな奴に何かしやがる物好きなんているわけねーけど、もしも何かあったら10代目が気に病まれるだろ!!」


なんでツナ君が?
聞き返そうと思ったけど止めておいた。
理由がなんであれ、
私の身を案じてくれてることに変わりはないのだと思う。
何より今はそれが嬉しくて、
何かを口にすればそれは涙と一緒に出てきてしまいそうな気がして、
私は短くただありがとうとだけ言った。
嫌に素直じゃねーかと、
彼は少し戸惑ったように言う。

学校以外で君と話すのは初めてだね。
二人きりで話すのも初めてだ。

そんな些細なことに気付いているのは、
きっと私だけだよね。
君にとっては、
学校も外も同じ。
二人も三人もきっと同じ。
だってこれは恋する人間にしかわからない、
小さな幸せなんだ。

ふぅと白い溜め息をついた彼は、
ポケットから小さな箱を取り出してその中から取り出した煙草に慣れた手付きで火を付ける。
ふわっと、
私の中で獄寺の匂いに位置付けてある煙草の香りが冷たい風に乗って鼻を掠めた。


「送ってってやるよ」

「……へ?」

「こんな所に置いてけねーだろ、
てめーと二人でいるところなんざ誰かに見られでもしたらたまんねーし、さっさとしろよ」

「……でも…」

「だぁぁ!!10代目や山本抜きでてめーとダラダラいつまでもだべってらんねんだよ!!わかんだろ!さっさと行くぞ!」


ほんのり、
頬が赤く見えたのは気のせいだろうか。
すっかり背中を向けられて一人先を行かれてしまった今、
確認する術はない。
けど、
冷たい外気とは裏腹に、
私の頬が熱くなっているのは確かだった。
息ができなくなったみたいに胸が苦しい。

だってそんなの、
まるで山本君と同じような存在としか思われていないんだろうと思ってた私を、
女の子として意識してるみたいに聞こえるじゃない。
外で二人でいるところを見られたくないとか、
ツナ君や山本君抜きじゃ喋れないとか、
まるで初めて外で会えたことにも、
二人で話すのが初めてだってことにも、
私みたいにちゃんと気付いてくれてるんだって、
思ってしまうじゃない。

それはただ自分にとって都合良く、
そうであって欲しいという願いがそう思わせてるだけかもしれないけど、
それでもたまらなく嬉しくてまた、
鼻がツンと痛くなった。
泣いて、しまいそう。

そんな私に気付きもしないで、
ほら早くしやがれとぶっきらぼうな優しさを投げつけて、
少し先で歩く速度を落として私を待ってくれる君。

私はそっと、手を伸ばした。

すぐ近くにあるのに、
遥か彼方にあるような、
画用紙を真っ黒に塗りつぶして金平糖を散りばめたみたいな空に、
君の背中に。



「…ねぇ獄寺…」

「あぁ?」

「星ってさ…遠いよね」

「何の話だよいきなり、
別に遠くねぇだろ、今の技術じゃ宇宙にだって簡単に行けんだし、
こうやって目に見えるくらい確かに存在してんだ。俺にしてみりゃツチノコなんかの方がよっぽど未知数だぜ」


くだらねーこと言ってねーでさっさとしろ、
と付け足してまた歩き出す君に、

私は思いっきり手を伸ばす。

届かないのかも知れない、
叶うことなんてないのかも知れない。

けど、


「………獄寺」

「あんだよさっきから!まだなんかあんの───…」




「私、獄寺のことが好き」






星は遠くないって、
君は言ってくれたから。

届いてくれるような、気がしたんだ。






驚いたように振り向いた格好のまま目を見開く君の上着の背中を掴んだ手に、
ギュッと力を込める。

ぶつかった視線を、
どうか今だけは逸らさないで。


唇にくわえられた煙草から立ち上る煙と、
私の吐き出す二酸化炭素が、
白く緩やかに混ざり合って真っ黒な空の中に溶けていく。

私は金平糖みたいな星がキラキラと瞬く満点の星空に、
赤い顔をした君を張り付けたような一枚の綺麗なその光景をしっかりと瞳に焼き付けた。


これが恋の終わりじゃなく、
始まりになるようにと、
やっとの思いで君を捕まえた手に、
ありったけの願いを込めて。










ふざけんなと、
いつもならごまかせるのに。
そんな顔して見上げられたら困る。

俺も好きだ、

なんて、
一生言うつもりもなかった言葉が、
喉の奥から這い出してきてしまいそうだ。




俺じゃダメだと思ってた
だってお前は
いつだって太陽みたいに眩しく笑う







END


はかどらない息抜きにG氏のお話(´Д`)
色んな意味を込めて書いてはいるのですが、
なかなかどうして私の力じゃ表現しきれず相変わらず残念な結果にorz
ウブで素直になれない初々しくて可愛い彼がもっと上手く書けたらいいのにp(´⌒`q大好きなのに↓)

何はともあれ、
お付き合いありがとうございましたぁ(≧ε≦)

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