秘蜜

□幸福な朝食を君と
2ページ/9ページ




ことの発端は、

夕べ長引いた情事のおかげで寝過ごした私が、
彼の朝食より、
早朝に用があるから寄ると言っていた来客を優先してしまったことにあった。


朝食を用意する時間もなく、
簡単に済ませられるようにと用意したトーストがまずかった。

彼が和食以外めったに口にしないってこと、
どうして忘れていたんだろう。

否、
忘れていたわけではない。

ただ、
もうじき訪れるであろう来客に寝起きの姿では失礼だろうと頭を巡らしてしまったのがいけなかったのだ。

そう、
いつだってあなたは自分が一番でなくてはいけなかったのに。

昔からずっとそうだったのに、
一緒に過ごした長い年月が、
そんな当たり前になりすぎていたことを曇らせてしまっていたんだ。


なんて後悔も、

もう遅い。









私が寝過ごしたことを責めるだけ責めた彼に、
原因は昨晩のあなたの執拗な行為のせいだと返すと、
“もっと”とせがんだ私が悪いとすかさず恥ずかしい揚げ足を取られてしまい、
果てに彼から発案された寝過ごさないようにするための対策は、


“睡眠時間が足りないなら明るいうちに済ませていまえばいい”


だなんてどうしようもないものだった。



そしてそれが今まさに実行されようとしているわけで。

明日は寝過ごしても構わないんだから今こんなことをする必要は微塵も無いんだし、
何よりもうじきキャバッローネのボスが来るんだから、
なんて抑制の言葉も、
エンジンのかかりきった彼にはもう、

届くわけがなかったんだ。





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ