*他愛ない君との時間*
□volume:5
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温かな湯気で満たされた浴室。
桜色に染められたお湯を張った小さめの猫足バスタブにあなたと二人向かい合って座れば、
そこはもう、
二人だけの小さな世界。
「ハッピーバースデー&10thアニバーサリー♪おめでとうございます雲雀さん」
「………毎年言ってるけど、
別に誕生日なんて嬉しくもなんともないよ」
「そんな悲しいこと言わないで下さいよ…ほら、
記念すべき二人で過ごす10回目の誕生日プレゼントです♪」
「………またなの?」
桜色の上に浮かぶ9羽の黄色いビニール製のアヒルの中に、
新しく仲間入りすることになるもう1羽を手の平に乗せて差し出せば、
突き返されたのは毎年恒例、
不機嫌に尖る唇と、
「いらない」
拒絶の言葉。
「そう言うと思ってました…
でも見て下さい!なんと今年のは……」
湯船を泳ぐ他の9羽を掻き分けてそれを浮かべれば、
薄暗いバスルームの中でチカチカと眩く七色に光りを放つ。
数あるお風呂用アヒルの中でもレアなそれをどーだとばかりに自慢げに見せつければ、
「…馬鹿じゃないの?」
なおも不機嫌に顔を歪ませる、
水も滴るいい男。
「わ、馬鹿は言い過ぎです!
この光るやつ探すの結構大変だったんですから!」
「……知らないよ、大体なんで毎年コレなのさ」
「え?だってコレヒバードちゃんに似てるじゃないですか?」
「彼はアヒルじゃないよ」
「それぐらい知ってます!
でも似てるし♪可愛いし♪」
そっと9羽に混じった七色に光る新入りを掬い上げて口付ければ、
放つ灯りが目の前にいる彼をもぼんやりと照らし出す。
湯気に溶かされた淡い光が、
白い肌に反射する。
「……………」
唇を湯船に沈めてブクブクと二酸化炭素を吐き出しながら、
綺麗だなと、
手の上の新入り越しに呆れたような溜め息をつく恋人に見とれていると、
「妬かせるようなことしないでよ」
と不機嫌そうだった顔を穏やかに緩めながらそれを取り上げられて、
引き寄せられた体。
何度見ても見慣れない焦がれた白い肌に急接近して、
そんなことぐらいで未だに息が止まってしまいそうに緊張してしまう私は、
何年あなたと一緒にいても、
昔と変わらずあなたの虜。
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