臆病者の幸福論

□引力に全てをかけて
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僅かに開けた窓から吹き込む風は生ぬるい。
それに乗って応接室に流れ込んで来る部活動に励む健全な生徒達が発する雑音に紛れて、
真っ黒なソファーの上、
真っ白な肌をさらけ出して鳴いているのは、
大好きな僕だけの君。


「…やっ…雲雀さ…窓閉めてから……」

「別にいいじゃない、
君が静かにしてればいいだけなんだから」


だけど…
と否定する言葉しか吐かない唇をそっと塞いで黙らせる。
今更遅い。
こうやって触れ始めてしまえば、
一分だって一秒だって離れたくなくなってしまうんだから。
窓を閉める、
なんて余裕はもう残されていない。

口付けたまま、
体の曲線を確かめるように手を這わせていくと、


「…ふっ…ぁ」


脆く儚い抵抗は、
いとも簡単に甘い声へと姿を変えた。

本当はわかってる、
君がこういうことをする時に静かになんて出来るわけがないってことくらい。

愛らしいその声を誰かに聞かせるなんて許せないけれど、
君が僕のモノなんだって、
知らしめてやりたいとも思う。

おかしな矛盾、
けど、
それが本音。


「…んぁ…雲雀、さ…」


快感に素直で、
僕に従順。


そんなところが可愛くて、
いつもいつも、
僕を引きつけて放さないんだ。

桜色に熟れた胸の頂きを軽く食めば、
僅かに開いた唇の隙間からは普段の惚けた声からは想像もつかないほどに艶やかな吐息を絶え間なく漏らす。
僕しか知らない、
あどけなさだらけの君の、
大人の一面。

いつからだったかな?
堪らなく僕を駆り立てるこんな表情や声が出せるようになったのは。

初めて君を奪った時は、
痛みに歪んで寄った眉間のシワがたまらなく可哀想で、
少しでも和らげてやろうと何度も何度も口付けて、
それでも動くことを止めることは出来なくて欲に溺れた僕はその時自分も一人の男なのだと思い知らされただけだった。

痛いから待って、
なんて言われて更に膨張してしまう熱はサディスティック故なのか。

いや、
だなんて言われれば言われるほど、
壊れてしまうほどに貫きたくなるのは男の性ってやつなのか。

そんなの僕にはわからないけれど、
“君に触れたい”
単純な衝動だけが呆れる程にとめどなく湧き上がってきて、
この快感に歪む表情や、
角砂糖より甘だるくなまめかしい声が、
日に日に大人びていくのを眺めていれば、

もう抱かずにはいられなくなる。


僕はただそんな衝動に、
素直に従っているだけ。

当然だ、
こんなにも君が好きでたまらないんだから。


だから毎日僕は、

君に、

熱を帯びた欲を吐く。



「…あっぁひ…ばりさっぁ」

「ワォ…欲しそうな顔」



欲しいのは、
きっと君より僕の方。

君の体を痺れさせる部分を擦る指を引き抜けば、
行かないでと後引くように糸を引く。
ヌルリと涎を垂らす花びらに誘われて、
引きつけられて交わった。

止まらない衝動と、
絡み付く快感に任せて動く僕に揺らされて、
止められない嬌声を抑え込もうと口を覆う君。

その細い首の中を通る喉から聞こえるくぐもった音声が、
もっともっととせがむ台詞に自動変換されて僕の耳へと運ばれる。


ずっと奥まで、

もっと溶け合わせて。


だってまだ足りない、

抱き締め合って、
最奥部まで深く深く沈めたって足りないよ。


どれだけ繋がったって、
どれだけ密着したって、
どれだけ溶かし合わせたって、

君は止むことなく、
僕を惹き付け続けるんだ。



それは、
手にした林檎を落とした時、
下へと落ちていくのは地面が引力と言う名の力で引き寄せているからだ、
なんてお偉い学者が見つけ出した世界の常識以上の力。


大地が発する力には、
跳ね上がれば抵抗できる、


けど君は違う。



引き寄せて、
引きつけて、
惹き付けて、


僕に抵抗なんて二文字すら思い出させない。


だから僕は、



君が発する
引力に全てをかけて
ただひたすらに君を抱くんだ。


まだ足りない。
もっと欲しい、
もっと近くに、
もっと一つに。





END

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