Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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いつもなら受付のおネエさんが3人、カウンターの向こうから笑顔で挨拶してくれるのだけど、しっかり週休二日の彼女達は当然に今日もいない。
ホントはランディだって週休二日だと噂されている公務員である(らしい)。ところが実情が24時間365日年中無休のコンビニ労働、3Kに準拠した業界であるから、そんな建前は最近まで知らなかった。
しかし今日の近衛は見事に休業日である。何故なら、今日は休みだと連隊長が珍しく通達したからだ。
それなのに、どうして俺はこんなところに……。
我が身に降り懸かった不幸が哀しい。

カウンターに向かって左手、直角に面した扉がオフィスへの入口である。だが、そこは目指す『俺のオフィス』ではない。何故かダイレクトに入室出来ないようになっているのだ。故意に工夫したのか、単なる設計ミスかは不明であるけれど、隣りの陸軍本部でも幹部のオフィスは同様の間取りだから、後者の可能性は極めて低い。そのワンクッションの存在理由には、まま、思い当たりもするのだが、必要性となるとランディも首を捻る。秘書官に専用のオフィスがあっても、あまり意味はなさそうだ。

そんな事をブツクサ思いながら秘書室のドアを解錠し始めた。途端にロックされていないと気づき、一瞬は深刻に考えたが、どうせ大した事なんかない。
思い切って大きく扉を開けた。
そこには予想通り、秘書のエーリック大尉がいた。彼は突然扉が開けられた事に驚いたようだ。直ぐにランディだとわかり、安心して微笑む。仕事の手を休めてデスクから立ち「おはようございます」と爽やかに挨拶してくれた。
予想したと言っても、それはたった今のこと。意外な事には変わりない。いつもの如く制服姿で働いているエーリック大尉にキョトンとした。挨拶されたのにも気づいていない。
「何やってんの? 今日は大尉も休みだろ?」
「はい。実は今朝クルドー大佐から面会の申し込みがありまして、明日からの予定を確認し調整していたところです。ですが大佐こそ…」言いながらランディの着ているピンクのシャツやインディゴブルーのGパンに目をやる。「今日は、確か…」
「それがな」途端に思い出してムスッとした。眉根が寄り、唇が尖る。「寸前でキャンセル喰らったよ。今日のデートは無期延期だ」
秘書室の奥にある扉のロックを外す。この向こうがランディのオフィスなのだ。
「何かあったのですか?」
「あったもクソも、オンナの友情にはオトコの割り込む隙なんかねぇよ」
全てに合点がいって苦笑するエーリック大尉を尻目にランディは『俺のオフィス』に続くベッドルームへと向かった。

ベッドルームは誰のオフィスにも、勿論秘書室にも標準装備されている部屋だ。使い方は個々の自由であるが、グレードに段階があるため純粋に仮眠にしか利用できない場合もある。完全なプライベートが保証され、ランディのオフィスのような上等なホテルのスイート仕様であれば引っ越して来たって困りはしない。実際にランディの扱いは自宅同然。"有事"の際には大変に有り難い『俺の部屋』であった。

熱いシャワーで汗を流し、真っ白い近衛の制服に着替えてオフィスに戻る。重厚なマホガニィのデスクの大きな革製の椅子に深く身を沈め、デスクの端にあったシガレットケースを引き寄せた。エーリック大尉が、ランディが煙草に火を点けるのを待って、珈琲カップをランディの手元近くに静かに置く。
ランディの機嫌は相変わらずよくないが、穏やかな表情のエーリック大尉をチラリと見て気が抜けたらしい。ふ、と笑った。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
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