Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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何とも耳を疑う言い分である。秘書の悪意の源はそこにあったようだが、これでは誰だって彼を出世させようとは思わない。否、免職にならない方が不思議だ。ボルドワール大佐は任務は完璧に果たす反面、上官としての能力は培われていないのだろうか。
エーリック大尉にとっては死活問題に当たる疑問だったのだが、これについては、たまたまランディ不在のオフィスで会ったデヴィッドと話す事で氷解した。これまでのランディには全く秘書は必要ではなく、その質など誰も問わなかったという。斟酌する事なく形だけ設置されていたらしい。置物だから何も困らないのである。

デヴィッドはランディの同級生なのだと言う。ランディもせめてデヴィッドと同級生であると万人が納得するようであれば、きっと違和感も反感も半減するのだろう。

『ランディが副官に任命されたのはノルマンディの意向が働いたからだ。それまでのようなアカデミー生のままだとランディの名でオペレーションが実行出来ない。するとランディを指揮する人間が必要なんだけど、見当たらなくなってきちゃってね』

にこやかにデヴィッドは話した。その笑顔は全く穏やかで朗らかで、後に背反行為を犯すようには見えなかった。

『けど近衛の副官なら当然正規のエージェントだし、ランディの判断で動かせる部隊も増える。実際、文句のない仕事をしてるよ。連隊長就任もノルマンディの強力なオファーで実現した。ランディが組織をどう作り、動かすかと知りたいんだ。それさえ見極めてしまえば、もうランディを近衛なんて小さな枠に押し込めておく事もない。うっかりすると半年後にはノルマンディに栄転だ』

デヴィッドの予想に反して……というか、デヴィッドの所為で"半年後の栄転"は消えているが、その言葉は正しいと実感している。ランディの人事はしっかりと機能し、人望は当たり前に厚い。噂通りのエリートだったと、エーリック大尉は満足していた。

改めて見るとランディは確かにキレイな男の子で、その美しさに目が眩み天まで全ての物を与えてしまったのではないかと想像してしまう。実際に、女は勿論、男にもよくモテていて友人が多い。
エーリック大尉を含む友人共の意見としては、キレイなのは兎も角として、その童顔が、ランディのキャリアに適っていないのだ。副官時代の秘書のようにランディを甘く見て、結果、火傷を負わされた人間は後を断ちそうにない。そして確かに華奢である。しかし本当は『ジョー・ブラックをよろしく』のブラッド・ピッドよりも"エロい"筋肉を持った隠れマッチョだ。そうとは知らずにウッカリ返り討たれた不幸な人々も多く、その場合の致死率は非常〜ぉに高いという。

『天使だってサ』
異動が決まった時、僚友がエーリック大尉に呟いた。
『悪魔なら取引に応じてくれそうだろ? そんなのもなくて否応なしに福音と死を齎す天使なんだって』

日常的に見られるランディはその外見も評判も裏切る不良少年でしかないのだが。

「ところで、クルドー大佐は何時来るって?」
「明日の午後にいらっしゃいます。14時頃でしたら30分程時間が空きますので、その時にお願い致します」
「はは」煙草を消して、ランディは立ち上がった。「今回は無理を引き受けてもらうからな。多少の条件は呑まなきゃな」
「親衛隊長代行ですか?」
楽し気なランディとは対照的に、エーリック大尉は困り顔で微笑む。
「俺も、王宮には用があるしね」言いながら歩きだす。どうせ明日まで仕事はないのだ。いつまで居ても無駄だと気づいたらしい。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
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