Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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その空間は《ミニサロン》だ。ミニと言っても決して小規模ではない。パーティーホールに較べれば手狭、というだけの事である。小洒落たカフェテーブルやカウチなどが点在し、ルマはここでランチパーティーや講習会、シネマの上映会など催すらしい。
ランディが仲間を集めればタダの居酒屋にしかならないが。

廊下は左に伸びていくが、ランディが目指しているのは所謂《主寝室》と位置付けられる部屋である。サロンを横切って階段を上る。段差が低く傾斜の緩い階段。踊り場にはバーラウンジが設けられている。踊り場というよりは中二階であろう。階段はそこで左に折れて、数段上がるとまた踊り場が。此処にもカウチが用意されていて、簡単なお茶会なら出来そうだ。これも踊り場というよりは中二階その弐であろう。此処で階段は二手に分かれ、真っ直ぐ行けばランディの図書室(書斎らしいがスペック的にレベルが違いすぎ)への近道になる。現在の目的地は所謂《主寝室》だから、右に折れて階段を駆け上がった。

上り切った真っ正面に、所謂《主寝室》の大きな扉がある。その両開きのドアが姿も見えないくらいに開かれていた。
間違いなくルマは此処にいる。
にまぁ、とランディの頬っぺたの筋肉が緩んだ。

建物の2階南側に贅沢に作られた所謂《主寝室》は厨房さえあれば生活の全てが賄えるワンルーム仕様である。何処かの体育館のような広さで、一応は夫婦の寝室だから一辺が3m以上もあるベッドがちゃんと二台置いてある。二人で寛ぐリビングコーナーもある。簡単な書斎スペースもあれば、陽当たりのいい場所にカフェテーブルもある。勿論ティータイムに支障がない程度のキッチンも完備している。
当たり前だがバス・トイレも室内にあって、どちらも無駄に広い。是非とも紹介したいが今は省く。

ドアから見ると右手がベッド、左手がリビングである。ソファの向こう側にある窓際のカフェテーブルに、ランディはルマを見つけた。

ルマは窓を少し開いてセーヌの流れを見つめているようだった。緩やかな風がルマの柔らかなプラチナ・ブロンドを揺らしている。アイスブルーの瞳は心なしか愁いを含んでいた。
軽やかな足取りでランディがテーブルに近づいていくと、ルマも気配に気づいたらしい。ゆっくりとランディと目を合わせて静かな笑顔を向けた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
座ったままのルマに、いつもと同じく口づける。
ルマは小さく笑った。
「何?」
「本当にオフィスへ行ったのね」
「行ったよ。意地悪されたからね」
向かいの椅子に腰掛け、シガレットケースをテーブルに置くと、そこに木箱があるのに気づいた。広辞苑より一回り大きい程度の箱だが、ランディにも見覚えはある。
「どうしたんだ? こんなもの」
「これはね」懐かしそうに微笑んで、ルマは箱から中身を取り出しランディに広げて見せる。「途中だったでしょう? 仕上げてみようかしらって思ったの」
ルマの髪と同じリズムで風に靡く純白のベビードレス。作りかけで、まだまだ端切れみたいなものだ。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
† Pot aux Roses... †

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