Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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それまで裁縫などした事のなかったルマが、生まれてくる子供の為に仕立てていたものだった。その頃のランディは連隊長就任直前直後で、とにかく目が回る程に忙しく、たまに帰宅した時にルマがメイドに教えられながら、ひと針ひと針丁寧に刺しているのを見た。時々針で指を突いてしまうから危なっかしくて見ちゃいられない。ついつい手を出してはルマに睨まれた。
それが未だに"端切れ"なのは、用がなくなり、完成させる理由も消えたからだ。

複雑な思いを隠すようにランディは両手で煙草に火を点け、深々と辛い息を吸い込んだ。口許に笑いを作る。
「仕上げて、どうする?」
ルマは嬉しそうだ。「シルベーヌに贈りたいの」
「シルベーヌ?」意外な言葉に驚いた。「何で?」
しかしルマも「あら?」なんて不思議顔をする。
「違うの? 私……てっきり、そうかと思って…」
「"そう"って?」
「確かめた訳ではないけれど、赤ちゃんがいるんじゃないかしらと感じたのよ。何となく私の時と同じだわって」
「へえ…」これまた意外な報告で、現実味がなくてニヤけてしまう。「嘘だろ?」
灰皿が常備されていないカフェテーブルから離れてリビングコーナーへ移る。
「一般職員とは違うんだよ? 妊娠したら途端に2年も休ませなきゃならない」クリスタルの灰皿に長くなった灰を落として、大きなソファに身体を預けた。「今シルベーヌに休まれたら、俺が困るよ」
ルマもランディの左側に腰掛ける。
「そんな事ばかり言わないで。本当にそうなら嬉しいでしょう?」
断固として願い下げだ。が、素直に喜んでいるルマにそうは言えない。答えをはぐらかしてルマの腰を抱き寄せた。
「何故そう思ったんだ?」
「それがね」ルマはランディから顔を逸らし、首を傾げてはにかむ。左手を左の鎖骨の辺りに当てて「こんなところに花びらみたいな模様が……。だから『どうしたの?』って尋ねたの。そうしたらディヴが残していったんだって……言うのよ。それで食事中にも『最近、体調がよくない』と言うから、今日は早めに帰したの」
「ディヴが残した…って……」
その場所が場所だけに、ランディにもルマの言いたい事は伝わった。恥ずかしそうに下を向いたままのルマも可愛いものである。けれどルマの話す内容はランディの想像力では全然処理出来ない。破格のエリートは色恋沙汰にもアッパラパーなのだ。
可愛いルマを前にして、降参の苦笑いをする。
「いくら頑固なマーキングだって1ヶ月も残ってないよ。相手は別人じゃないの?」
「ランディったら。シルベーヌはそんな女性じゃないわ」

ルマの言う通りである。しかもランディにとってのシルベーヌは"そんな"も"こんな"もさえないような、全く女っ気のない女だった。今でも、あいつはオカマでもゲイでもないと自分に言い聞かせる作業に忙しい。

それはシルベーヌの外見にも原因がある。実は国王ルイ・シャルルに瓜二つのそっくりさ加減なのだ。幼少時代は両者の見分けはほぼ不可能だったが、シルベーヌの方が体格が立派で、ついでに女子だと念を押したいのか長い髪にリボンを飾っていた為に、ランディは後ろ姿で判断していた。

ぷちっと ぶんこ
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