Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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歴代の国王がほぼ毎度同様の儀式を行って来ただけあってハード面でのセキュリティは整っている。けれど、それだけではシャルルの安全や儀式の成功は担保出来ない。ランディは3日前から現地で指揮官達に付き合う事になっていた。翌日にはシャルルが現地入りするから万全の準備が必要だったし、ランディにはパリに残らなければならない事情もなかった。

シャルルのデンジャラスな夢物語は何年も前に一方的に聞かされていたものの全く本気にしてこなかった。実はシャルルの行動はランディにも筒抜けであったが、意識的にそこから距離を置いて無視していた。相手にするだけ無駄だと思っていたからである。
でも後始末はランディの仕事。そう思うだけでウンザリするのに、シャンパーニュにやって来たシャルルときたら……イラ立つには十分だ。

全く現実味のなかった夢が実現する事が余程嬉しいのか、シャルルは道を踏み外すが如く羽目を外してくれた。目に付く美女を端からチョイスし予定外のデートに勝手に突入。その度に近衛は『明日国王になる予定の王子』の恋人(暫定)の身辺調査に振り回された。そんなに甘美な酔いを愉しみたいなら最初から準備しておけばいいのである。
ランディもシャルルには近づかなかったがシャルルも寄り付かなかった。ランディの機嫌が非常に悪い事を察しただろうし、余計にヘソを曲げて折角軌道に乗った計画をぶち壊されたりしたら大変だ。お互いに友人の顔で話すような状況ではなかったのだ。でも実際にはかなり近い場所にいる訳で、シャルルがデヴィッドを敵地に丸腰で放り込みながらも女と酒に酔ってイイ気分になっているのを見るとムカっ腹が立つ。

その苦々しさにいよいよヤッキリしてきた頃、防衛統括司令本部(ノルマンディ)と陸軍本部の連名で呼び出された。戴冠式さえも"どうでもいい"と言わせる程の重大で緊急の召喚命令であった。
ランディにとっては予想通りだから驚きはしない。

ヘリと軍用機を乗り継いで夜明けにはノルマンディへ到着。
それから丸2日、ランディは軟禁状態で査問され、近衛は関連施設の全てが調べられた。当然ヴェルデ家だって隅々まで引っ掻き回されている。

いやにしつこいと訝っていたら、原因はデヴィッドが月に持っていった、ランディにも予想外のモノにあった。シャルルがデヴィッドに運ばせたモノは6名のアナリストと彼らの持つ知識や技術、そして機密情報。更にオマケに連邦の諜報員2人。このエージェント達はノルマンディが仕込んだダブルスパイで、このオマケが問題を大きくしたのだ。シャルルが一体何処からこんなモノを仕入れたのかは知らないが、余計な事をしてくれたものである。おかげ様でノルマンディは素直にランディを疑った。

だが、疑ったところでどうやったってランディからは何も探り出せない事もノルマンディは知っている。だからこそランディは出世したのだ。最高司令官ノウリス元帥の判断が後5分遅かったら、エージェントの造反に責任を感じている陸軍がランディのプライベートに踏み込むところだった。勿論そこにはルマも対象として含まれていたが、ルマに手をつけようものならランディは必ず暴走する。暴走したランディほど手のつけられないものはない。ノルマンディ、殊にノウリス長官は骨身に沁みてご存知なのだ。

それに、インフルエンザウイルスの100億分の一程の数字の可能性すらないが、よもやランディが素直にゲロったとしても、いい事ばかりとは限らない。うっかりすれば国が転覆するようなヤバいネタを放出する危険性もある。世の中には叩き出してはいけない埃もあるものだ。
色々スッキリしないままランディの個人的な嫌疑は晴れた訳だが、立場上責任の追及は免れなかった。が、ランディにしてもノルマンディにしても、“その程度” で収まってくれて大変に有難い展開であった。

全てはシャルルの我儘なのだが。

ぷちっと ぶんこ
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CLIB NOTE
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