Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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ランディがシャンパーニュへ発つ前夜、デヴィッドは珍しくコニャック持参でオフィスに訪ねて来た。ちょうど不穏分子潰しが佳境に差し掛かった所で、とてもゆっくりとは相手をしてやれなかったけれど、隙を見つけて話を聞いた。大方、返事に困るような問いかけばかりで、デヴィッドが満足出来るように応えられたとは到底思えないけれど、そんな質問をランディにする方が無謀だったのだ。今になって思い返すと、大嘘つきめ、と笑ってしまう。

――好きな女って、なかなか抱けないもんだね。

なぁ〜んて言ったのだ、デヴィッドは。
それなのに鎖骨にマーキングなんかしてる。
ランディもその辺りにキツめのキスマークをつけてみた。
でもやっぱり納得出来ない。首を捻る。
「ね……」
ルマの耳元で囁く。
「1ヶ月も残ってるマーキングって、どんなのだった?」
ルマは気分よさそうに、目を閉じたままクスクスと笑う。
「本物じゃないわ。シールかインクか、きっとそういうものよ」
「インク?」

ルマの左足には『Randies Joseph Xavier』とランディの名前が書いてある。ランディ直筆のサインなのだが、書き込んだのは5年くらいは"昔"の事。ちょっと長めに留守をするからと、ルマにもリクエストされて軽い気持ちで署名したら、次に会った時にはシッカリ彫られていた。正直にランディも面喰らったが、困って慌てたのは雇い主である近衛のエラい人々。タトゥーはタブーなんだと、ランディが懇々と説教された。でも全く説得力なし。何故なら、ランディの右上腕にはルマの名前がちゃんと書いてあるからだ。カノジョの名前はOKでも、カレシの名前はNGなのだろうか。

「そのうち本物の刺青になったりしないだろうな」
「大丈夫よ」可笑しかったのか、ルマは起き上がってランディを見下ろした。「"これ"には賞味期限があるんでしょう? 新鮮なのが一番よ」
にま。「そうだね」
再びルマをベッドに倒してランディはご満悦だ。
「今日の記念にたっぷりマーキングしちゃうよ」

ルマの困った表情も可愛い。だからもっと困らせてやりたくなる。「イジワル」なんて言われたりすると何処までも意地悪な気分になって止まらない。恋の誘惑に流されるまま"あんな"んや"こんな"んな悪戯ばかり幾つも思いつき端から実行。あまりの気持ちよさに現実の全てが真っ白………になりかけた途端、ランディは突然思い出した。

「どうしたの?」
いきなり静止したランディにルマが呟く。
ランディは止まったままの格好で、ルマの髪を撫でたりして自分を落ち着かせた。
「今日はさ、デートする約束だったよね?」
「そうよ」
確かめるようにサイドテーブルの時計に目をやる。外の景色はまだ明るいけれど、もう夕方だ。こうしちゃいられない。ゆっくりとルマを抱き起こす。
「続きは夜。今日はルマの希望を叶えるよ」
「ランディ……」真っ直ぐに見つめて、弱々しく微笑む。「私、そんなにすぐ…動けないわ……」
「任せろ。そんなルマをドレスアップするのは得意なんだ、俺」
上機嫌で自慢して、足取り軽くクロゼットに向かった。
……と言うか、いつの間にナニやってたのよ。油断も隙もない。

ぷちっと ぶんこ
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