Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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パリばかりでなく、国内の裏社会の殆どを支配しているのはフェルディナン侯爵家という財産家だ。
元々フェルディナン家は単なるアングラワールドの顔役であり金主であったが、その大ボスと王女様が恋に落ちたのだと言う。『女の一念、岩をも通す』の言葉通り王女様は極道の妻になり、そのあまりの体裁の悪さに親父(国王)が娘の亭主に爵位をくれてやった……という伝説になっている。もう何百年も昔のことだから、『番町皿屋敷』『鍋島の化け猫』同様、事実はわからない。他説では共和主義に対抗しようと宮廷が王女をマフィアに売って裏資本を手に入れたとも言われている。その資本は世界の経済をボルドワール家と二分するほどで、当然に巨大だ。これによりフランス宮廷の地位は安定したが、アングラワールドの住民にしてみれば巨大な金庫を体制側に買われてしまった訳で、対価が女と爵位ではメリットは何もない。あるとすれば、健全化を余儀なくされたために一般市民の好感度がアップしたことぐらいだ。

国王に侍る事になったフェルディナン家は宮廷の泥を被って仕事を熟してきた。とてもよく働くので重宝がられてしまい、裏社会に帰ってしまわないよう宮廷は当主に身分の高い娘を嫁として斡旋し続け、結局侯爵家にまで成長した。しかも代々婚姻によって築かれた人脈により表社会への影響力も入手。今やどっちを向いても敵なしの状態であった。

そのフェルディナン家の現在の当主は陸軍No.2、参謀総長フェルディナン元帥閣下だ。元帥なのにNo.2なのは単に上が閊えているだけだろう。本人は現状で満足しているようだけれど、それでは宝の持ち腐れもいいところだ。
そんな参謀総長のフルネームは"ミシェル・アンディ・ルキアス・マクシミリアン・ルヴォア・ド・フェルディナン"などと、やたらと長い。恐らく二度と紹介しないと思うが、この無駄に長い名前には深い意味があるのだと言う。

ミシェルの父は当主として男子誕生を望み続けたが、何故か生まれてくるのは女児ばかり。ヘンリー8世のように妻を変えたりして何度もトライ。先端医学にも縋るもののヤッパリ女子。妻以外の女性に頼んで産んでもらっても、悉く女子。トコトン女子。養女としてフェルディナンの姓を名乗った娘だけでも20人を超える。認知しただけの娘もいるのだから、はてさてミシェルの《姉》というのはこの世に何人存在するのか…。流石に心が折れた父親はメランコリーな旅に出た。そこで出会った若い娘(多分に一番上の娘より年下)と恋をして、熱心なプロポーズの果てにようやくゴールイン。翌年、玉のような男子が誕生した。狂喜乱舞したに違いない。だからこそ、これまで考えていただけの『息子の名』を詰め込んでしまったのだ。他人事なら感動エピソードだろうけれど、本人や関係者には迷惑な親心であろう。

そんなミシェルは、以前のロッシュにとってはスポンサー兼クライアントだった。ロッシュはファミリーの為、ファミリーに集った息子たちを食わせる為に、必死で働いた。実業家と極道の顔を使い分け、時には法律を武器に、また殆どは銃で粉砕して問題を解決してきた。その努力が認められ、めでたくフェルディナンの信頼を勝ち取ったのだが。

ミシェルは余程ロッシュを気に入ったのだろう。陸軍の仕事まで回され、二束三文で面倒を押し付けられるようになった。口では商売上必要な違法行為などのお目溢しとか約束してくれるのだが、陸軍幹部の空手形など現場では全く役に立たない。
挙句に「隣の家の息子だ」と言って10歳にもならない小僧を勝手に置いていった。社会見学などと嘯き「一応は貴族の嫡男だ。何をさせても構わないが、心身と名誉に係わる傷はつけるな」なんてな注文までつけていく。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
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