Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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ランディとは対照的にシルベーヌの様子は落ち着かなくなった。碧い瞳を白黒させ、次第に視線も泳ぎだした。長い足を組み、長い髪の毛先を忙しなく指で玩ぶ。無意識の行動だろうが、その"らしくない"仕種は色々と物語っているようだ。ランディはポーカースマイルを作った。
ルマの勘は、当たったかも知れない。
そんな言葉が頭の片隅にポツンと湧いた。

「はあ」呟いてカップを手に取る。「安心して。ルマの勘違いよ」
「そお?」
「しつこいわね」
「わかったよ」煙草を消した。「じゃ、明日。朝一番で先刻の報告書をフェルディナン侯に持っていってくれ」
「自分で行けば?」
「無理。明日は大隊長と打ち合わせがある」
「どうせ5分で済んじゃうんでしょう?」呆れた溜息と同時に立ち上がった。「空軍の幕僚がいつまで続くんだってボヤいてるわよ。護衛機のメンテが忙しいんですって。それに結構いい装備にしたそうじゃない。燃費が悪いって愚痴られたわ」
「そんなのは空軍には関係ないだろ? 全部こっちの会計なんだから。他人の財布まで気にするなって言っとけ」
「カナダ大使館からも打診されてるんですって? 国務次官がシャルルに会いたいんだとか。宮廷は返答したの?」
「"どうぞ、いらっしゃい"」また煙草を手に取って、長めの前髪をかきあげた。「敵国って意識がないみたいだな」
「来仏の日程が決まったらどうするの? 海上保安室、まだパニくってるわよ?」

近衛にも幾つかのセクションがある。海上保安室はその一つだが、日本の海上保安庁と同じで、平和そうな語感とは裏腹に恐らく近衛の中でも一番の武闘派セクションであろう。艦対空ミサイルの発射を実行するような部署である。
ところが、これが今バミューダトライアングルに迷い込んだようにピントのずれた仕事をしてくれる。室長のデヴィッドが一見全てを放り出して消えてしまい、その後の調査とやらで一時的に必要な設備や書類が押収され、残されたオペレーター達には何をどう修復していいのかわからなくなっていた。司令部総出で復旧に努めたものの、かなり怪しい。

「しょうがねぇよ。副長の手腕でも見物するよ」
暢気に"職後"の一服に戯れるランディを、シルベーヌは腕組みまでして見下ろす。
「何とかしよう、とは思わないの?」
ランディは小さく首を傾げた。
「ディヴを行かせたのは貴方でしょう。ランディ」
「うるせーデカ女」
この反応にシルベーヌの目がつり上がった。

シルベーヌは本当にスタイルのいい女の子なのだ。手足は長いし、キラキラ輝くブロンドも真っ直ぐに腰まで伸びている。素顔はまるでメイクアップしたような美人。しかし、その足の長さが災いしたのか、スポーツを嗜む事もないのに、やたらと背が高い。この現実はシルベーヌの生まれついてのコンプレックスだ。
口の端がピクピクと震えだした。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
† Pot aux Roses... †

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