Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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そんなものはデヴィッドにとって障害ではない。ランディとシルベーヌをカップルに仕立て上げ、あぶれた男を熱演。見事に目ぼしい女子のハートを掴んだ。恋は落ちた瞬間がドラマとばかりに4人でリッツのスイートへGO!
ノルマは回避出来ても、仕事もしないでシルベーヌと二人きり。隣の部屋では恋愛ヲタクの親友が新しい玩具の名前を覚えて無我夢中で炎上している。ランディにしてみれば退屈で仕方がない。それはカウチに並んで座るシルベーヌも同じだったらしく、隣室の俄かカップルの様子に耳を欹てて『あの娘の声、全然聞こえないわね。まさか処女? まさかよねぇ。じゃあ何? マグロって言うの? 勿体ないわね。こういう時はマグロじゃなくて、せめて鯉を釣っとくべきよね。全く高くついたわよ。ここのお代、誰が払うの?』と延々ボヤき続けた。

当時はこれこそがデヴィッドでありシルベーヌであったから、当然のように受け流していたのだが。
人の縁とは実に不思議なものだ。


大隊長達との打ち合わせは5分とはいかないものの30分足らずで片付き、ランディはその後、参謀のメイセン大佐とエーリック大尉を連れて国防省へ向かった。

国防省は軍とは無関係の政府の機関である。それこそ保安関係の仕事をしていて武器・薬物・病原菌などや犯罪や訳ワカンナイ思想やらが国内に入ってこないように監督する役所だ。勿論、国益が国外に流出しないようにも監督する。

こんなところまで足を運んだのは国防と近衛でデヴィッドの罪状の捉え方がかけ離れているからだ。国防はデヴィッドを主犯だと主張している。8人もの人間を誘拐し亡命の手土産にしたのだと。一方の近衛は6人のアナリスト達が亡命の手段としてデヴィッドを利用しただけだと反論し、お互いに譲らない。デヴィッドが戻れば"デヴィッド亡命説"はとりあえず否定されそうであるが、その場合は"組織犯罪"と考えられ必ず共犯者が存在すると国防の担当者は力説する。

なかなか真実に近い。国防省にも有能な"参謀"がいるのだろう。けれど有能な参謀なら近衛にもたっぷり揃っているし、国防とは違って『事実』を確認するためなら手段を選ばない。当たり前に証拠を捏造する。今回はそんな必要はないと判断できたが、それも探ってみなければわからない。
ランディは話を詰めて争点を絞る為に自ら出向いたのではない。国防がどんな証拠を掴み、何処まで事件の核心に迫っているのか確認に来たのだ。Gメンと言えども所詮は法治国家の役人である。場数を踏んだ情報戦のエキスパートにはヌルい相手であって、然程時間もかからずに目的を果たした。

好感触に満足して近衛に戻る。予定よりも早く用が済んで、今日はゆっくりランチにありつけると、気分は上々だ。
オフィス前の受付のおネエさんがランディの姿を見つけて声を掛けてきた。参謀総長のオフィスから連絡があったのだと言う。
「内容はわかりませんけど、とにかく急ぐので戻られたらすぐにバーロン大佐に伝えるようにと仰言っていました」
ナンだ、そりゃ。「連絡するだけ? いつ頃そんな事を言ってきたんだ」
「つい先程です。30分経っても不在ならば呼び出すようにとも言われました」

ぷちっと ぶんこ
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