Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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相手は受付嬢だと言うのに無茶な注文をするものだ。ランディは傍らにいるエーリック大尉に振り向いた。
「だって。何だかわかんないけど用件を訊いておいてくれ」
「わかりました」
「バーロン大佐とチェスでもやってんじゃないの? 次の手が打てなくて悩んでるとか、そんな事だろ」
言うだけ言って自分のオフィスにズンズン向かい、早速煙草に手を伸ばした。

デヴィッドが無事に生還しても近衛に戻ってくることはない。今回の事でデヴィッドの信用はガタ落ちだ。軍法会議は本人の所在が確認できない限りこの案件の審議を6ヶ月だけ猶予すると決めてくれたが、それを過ぎたら間髪入れずに欠席裁判である。そこではデヴィッドの亡命を否定する論拠が消滅し国防の全面勝訴が確定する。それからデヴィッドが帰ってきたとしても、そのまま一生"塀の中"で暮らすしかない。すぐにシャルルが恩赦を与えるのだろうが。けれど今夜にでも還ってくるかも知れないのだ。出来るだけの準備は整えておいてやりたいと、ランディは思っていた。

椅子ごとデスクに背を向け、いつも自分の背中を見下ろす軍旗に白煙を吹きつけた。
大きな軍旗の下に国旗と王家の紋章をあしらった近衛連隊旗が並べられている。
軍は国の為に働くが、為政者の所有物ではない。
将校が忠誠を誓い従う主人は常に上官である。
いよいよとなったらノルマンディの弱味を握り締め、ノウリス長官に英断という強風を吹かしてもらおうかと考えて、ランディは嘲った。そんな"借り"は作りたくない。シャルルの我儘に付き合うのは全く大変だ。

「失礼いたします」
エーリック大尉の声にランディは向き直った。
「バーロン大佐に連絡しましたが……」ランディに向かいながら難しい表情で首を傾げる。「すぐに参謀総長のオフィスへ参るようにと」
妙ななりゆきにランディもエーリック大尉をボケッと見る。
「それから……」
エーリック大尉にも不可解なのだろう。ランディの前に立って戸惑っている。
「信頼できる女性士官を同伴するように、とも言われました」
「女?」
前例のない要求につい考えてしまう。煙草をひと吹かしして腕を組んだ。
「大尉」眉間にキツい溝を作る。「チェスじゃねぇな」

要求は承知したが、しかしサッパリわからない。
司令部には4人の女性幹部がいる。参謀長のバリー中佐はランディの代理でストラスブールに出張中。シルベーヌはまだオフィスに戻っていないというし、連邦対策室は暇だろうが、室長のアリアーヌ・ビルヌーヴ少佐は何だか苦手だ。ダメもとで超多忙の情報室長ジョディ・ガルシュ少佐をオフィスへ呼んだ。

「何ですか? それ」
ジョディはランディの話を聞くと、眉毛を吊り上げて気炎を吐いた。案の定な反応だ。情報室はキリのない連隊長のオーダーを受け、毎日二度三度と締切に追われている。今も午後一番に提出する予定だった報告書を持参していた。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
† Pot aux Roses... †

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