Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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耳を疑うジョディに、バーロン大佐は初めと同じ硬質で冷静な言葉を繋げた。
「見た通り、外には部外者が多くいます。医師など呼べるはずがありません。ですから、これに服を着せ、早々に近衛にお持ち帰りください」
「"これ"ってナンだよ。いい教育してんな」投げ捨て同然にミシェルを放す。呆れる以外にどうしろと言うのだろうか。「用済みの女は器物扱いだもんな」
ルマの勘は当たっていたと、こんな悲劇で証明されてしまうなんて。
ベッドに戻ってジョディに首を振る。この部屋は参謀総長を守るバーロン大佐が管理する場所だ。ミシェルがあんな様子では何も期待できない。
「服、着せてやれそう?」
「無理よ。動けないのよ?」シルベーヌの背中辺りをダウンの上から摩りながら応える。「それに、着せたところで制服は真っ白よ。出血が続けば目立ってしまうわ。ここには処置に必要なものもないでしょうし」
「それがあれば、ジョディに手当ては出来る?」
「応急処置くらいなら」
ジョディの隣に腰掛けてシルベーヌを見やった。髪が乱れていて顔が隠れている。時々小さく呻く程度で、弱々しくて切ない。
「じゃ、近衛の医務室から調達してきてくれ。薬もあるだろ?」
「そうね」
しかしジョディが立ち上がると、バーロン大佐が阻んだ。
「貴方方は何度言えばわかるのです。元帥閣下はお忙しいのです。これ以上予定を遅らせる訳には参りません。早く立ち去りなさい」
「いい加減にしろ!!」
とうとうランディの自制心がブチ切れた。並べば目線が下になるバーロン大佐をわざと見下ろすように立つ。
「どんな経緯があろうと自分のオフィスで血を流して倒れてる人間がいるんだぞ? なのに手当てもしないで放り出すつもりか? 大体、俺がこいつを連れて出て行ったところで、すぐに元帥閣下とやらが働ける状態なのか? 夜中でもないのに、あんなだらしない恰好で人前に出てみろ。本人が笑われるだけじゃ済まない。陸軍の品格が問われるぞ」
だが、バーロン大佐も負けていない。
「それはこちらの考える事です。貴方方には関係ありません」
「なるほどね」
鼻白みながら腕を組む。
「ガルシュ少佐。命令だ。俺の指示通りに行動しろ」
「はい」
弾かれたようにジョディは部屋から駆け出していった。
ランディを凝視したままバーロン大佐の表情はどんどん険しくなっていく。
「勝手な事を……」
「大佐が言った。俺達には関係ないとな」
「元帥閣下の名誉が損なわれます。今後については十分に覚悟なさい」
「どうとでもしろ」
唾を吐くように言葉を吐き捨てて、ランディはまたベッドに腰を下ろす。
シルベーヌを見るけれど、やっぱり表情はわからない。全てに於いてデジャヴを覚えるから、わからないのは救いだと思った。

ぷちっと ぶんこ
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