Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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「シルベーヌ。聞こえるか?」
耳元で静かに問いかける。反応があったようだけれど気のせいかも知れない。
「すぐにジョディが戻ってくる。それまでの辛抱だ。待ってろ」
ゆっくり話してやると、シルベーヌが手を伸ばしてきた。
あまりにも頼りない手。ランディはそれを強く掴んでやった。
「……ごめんなさい」
やっと聴こえるような小声でシルベーヌは呟く。
「全くだ」いつもの調子で言う。「おまえのせいで俺もジョディもランチはキャンセルだよ? 埋め合わせはしてもらうからな」
「するわ……」

多少は喋る気力があるらしい。短く息を吐いて、ランディは傍から離れた。
ろくでもない事になったものだ。ルマが知ったらどんな顔をするだろう。想像してみた。怒られるならまだいい。泣かれたらどうしよう。慰める言葉など見つけられない。

「バーロン大佐」
苦々しい表情でバーロン大佐は反応する。
「この事は公けにはしないんだろ?」
「当然です」
「その方がお互いに都合がいいよな」シガレットケースを取り出す。「この後、近衛の医師に診せる。診断書は書かせないし、彼女については何の責任も追及させない」
少々意外だったのか、バーロン大佐の顔も和らいだ。
「ご理解いただけますか」
「プライベートにはね」
釘を刺して、立ったまま煙草に火を点ける。どうして不機嫌にならずにいられるだろう。白煙を勢いよく吹き出して口先だけで嘲って見せた。
「けどな、参謀が勝手に欠席じゃ俺も困るんだ。ここでひっくり返った事は文書にさせてもらうぞ」
言いながらミシェルの元へ向かう。そこに灰皿があるからだ。背後からバーロン大佐の金切り声が迫ってくるが、そんなものは気にしちゃいられない。そこにいるミシェルと目が合って、意地悪に微笑んでやった。
「いいよな」
ミシェルは一度ベッドへと視線を移し、諦めと安堵の混じった吐息を漏らす。
「それで、彼女が守られるのなら」
「どうせ邪推の余地は残るんだ。あんたには大した傷はつかないかも知れないが、シルベーヌの方は人格まで疑われる。それだけの事をやっちまったんだ。覚悟はしろよ」
「わかっている」
「ホントかよ」

このクソ親父が何を考えているのか全然わからない。息子の置いていった酒も女もスッカリ空っぽにして、ランディに尻拭いさせようとしている。尤もランディがミシェルの立場であったなら、エーリック大尉もバーロン大佐と同じような措置をしたかも知れない。ランディがバーロン大佐の立場になっても、やはり責任者を呼び出しただろう。だが、そんな組織の暗黙のルールとは別に、無視できない現実がある。

ぷちっと ぶんこ
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