Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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「謹慎……?」
「別にクビでもいいんだけどな。参謀総長がこれまたひどくご立腹だ。寝具どころか寝台の交換費用まで請求してきたぞ」
「フェルディナン侯が?」
「それぐらいのポーズは必要だろ。多分、効力はないだろうけどね」話しているだけでウンザリする。男女の機知には全く疎いランディには自分の身辺で起きた事が殆ど理解できていない。「邪推は邪推のままに。その方が俺も有難い。万一宮廷に知られたら俺のクビが飛んじまう」
シルベーヌは恨めしい視線をランディに送った。目が合っているのではないから届かないとは思うが。
「だから私を免職にしないの?」
「クビになりたい? 簡単だぞ。けど、その後おまえはどうするんだ」
「……後?」
「自分が生まれた場所を忘れた訳じゃないだろ。どんな形でも近衛を辞めれば、デュカス家の姫君ならば国王に近い立場で宮廷に永久就職させられるって現実が待ってる。スムーズな親善外交が出来るように適当な家柄の息子と結婚してナントカ夫人になるということだな。当然の事ながらディヴがおまえの為に確保した"ヴェルデ伯爵夫人"の椅子に座る資格を失う。同時におまえの自由と明るい未来も泡沫となって消える、ということだ」
「ディヴを失うの……?」
「とっくに捨てているのかもな」
シルベーヌを見る事もせず、靄のような白煙を漂わせる。
「そうだとしても、帰ってこないあいつが悪いんだろ。おまえを半端なオンナにしか出来なかったあいつがバカなんだ。おまえも、あんな能天気なヤツの事より自分の事だけを考えろ」
「どうしてよ!?」
「あいつはあいつの都合で勝手におまえを置いていった。帰ってくるつもりかも知れないが、そんな事はわからない。だからおまえが今どうしていようと、あいつには関係ない。おまえが誰と何をしたってあいつに文句を言う権利なんかねぇよ。例え、あのクソ親父と寝たってな」
「だから、それは私の間違いよ!」
「わかっているなら自分で責任を取れ。ディヴの事はともかく、おまえには下手すりゃ一生ゴシップがついてまわる。ここでも、宮廷でもな。結局おまえの逃げ場なんか何処にもない。クビになりたけりゃそう言え。いつでも免職の辞令を出してやる」
強く言ってみたが、シルベーヌの反応はない。見ると、シルベーヌは表情もなくしてランディの方を茫然と見つめているだけだった。現実の処理に忙しいのか、それとも迷っているのだろうか。迷っているのだとしたら救いようがない。自暴自棄になっているのと同じだ。
「一応忠告しておくけど、王位継承権を持ってるお姫様を雇うような部隊は他にはないぞ。明日シャルルに息子でも生まれない限りな」
シルベーヌは再び泣き出しそうな目になって、それでも笑顔を作った。
精一杯の強がりらしい。
「今朝……ルマから電話をもらったわ」
とんでもない話題の切り替わりに、思わずランディは横目でシルベーヌを睨む。その事でも殊更気分は悪いのだ。
「ルマは優しいわ。身体の事を気遣ってくれたり…。私の味方だと言ってくれるの。今の私の気持ちがわかるから…って。でも本当にルマにはわかるのかしら。確かに結果は似ているかも知れないけれど……全く違うわ。私には傍にいてくれる人も、一緒に悲しんでくれる人も………怒ってくれる人もいないんだもの」

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