Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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「ルマがいるだろ」潰した煙草を灰皿に放る。「ルマはね、昨夜、話を聞いた途端にノートルダムで1時間も祈ってたよ。おまえの為に朝まで泣きっぱなし。今朝のあいつの顔なんか見れたもんじゃない」

どんな答えを期待していたのか、シルベーヌは哀しそうに黙って俯いた。

黙られてしまうのも、また困ったものだ。というより黙り込んだ女ほど恐ろしいものはない。何を考えているのか不明だが、こちらがグウの音も出せなくなるような反撃エネルギーを充填しているのだ。
昨夜のルマもそうだった。
シルベーヌの傍にいてあげたいと言うので夜道は暗くて危ないからダメだと答えたら、ルマは暫くマジマジとランディを見つめ、そしてイキナリ泣き崩れて「友達が辛い時にどうして夜道の心配が出来るの?」と怒りだした。夜道じゃなくてルマの心配をしていたのに、ランディには予想外の反応で慌てた。

「一晩中、口を開けばおまえと、後悔の思い出話ばっかりだ。あいつも自分が油断した隙に"殺した"と思ってる。だからおまえが今どんな風に自分を責めているのかわかるんだって言ってたぞ」
「…なら、わからないわ。ルマには、きっと」顔を逸らす。「ルマは貴方のために自分を責めていたのよ。私のように、自分のために自分を責めるような孤独な後悔はしていないはずよ」
「それでもルマが一番わかってくれるだろ?」
「貴方はわかってくれないの? ランディ」
指名されて、ランディの目はいよいよ座る。昨日といい今日といい、どうして俺なんだとイラついた。
「俺にわかる訳ないだろ。孕んだ事なんかないしな」
「そんな事じゃなくたって……」ランディに向き直り、気の強い瞳で睨みつけた。「貴方がディヴを行かせてしまったんじゃない。だったら少しぐらい気遣ってくれてもよさそうなものなのに、どうでもいい事ばかり頼ってきて、どうして肝心な時には放ったらかすの?」
どうやら怒られているようだが、言われている事がサッパリわからない。
「そんな暇があると思うのか? ディヴがどうしようが、俺は俺で忙しいんだ。家に帰ればルマもいるしな」
「何でもルマが大事なの? ルマの前ではどんな関係も紙クズ同然? 貴方も昨夜はノートルダムで1時間つきあったんでしょう? だけど前のランディはそんなんじゃなかったわ。ちゃんとみんなの…、私の事だって考えてくれていたわ。なのに今はどうして、そんなにルマばかりなのよ?」
「前ったって、ガキの頃のハナシだろ」
付き合いきれない。顔中の筋肉が意思に反して滅茶苦茶に引き攣るのを自覚した。
「おまえ、俺のヘソを捻じ曲げたいのか?」
「ええ、曲がっちゃいなさいよ! ルマが笑っている時だけ真っ直ぐなランディの機嫌なんか幾らでも捻くれて結構よ!」
「おまえみたいなオンナ、面倒見きんねぇよ」
デスクの上に置きっ放しだった処分の通知書を乱暴にシルベーヌの方へ押しやって、ランディはシルベーヌと向き合った。
「今日付けだ。当分デュカス少佐の仕事はない。とっとと帰って寝てろ」
ランディが言い終わらないうちにシルベーヌもむくれっ面で席を立つ。ランディよりも強引に押し付けられた用紙を掴み取る。
「ご迷惑をおかけいたしました。では3週間後に」
スンっゲーふてぶてしい態度。二人は同時に相手に背を向けて、シルベーヌはスタスタと出て行き、ランディは煙草を吹かした。

ぷちっと ぶんこ
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