Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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「迷子は多いのですよ。それも子供とは限りませんで、人間ならばまだしも犬に猫にハムスター……。蝶が逃げたと大騒ぎになった事もありましたな」
引継ぎの際のクルドー大佐の言葉にランディの頭は真っ白になった。そんなものだと覚悟はしていたが、迷子の蝶などどうやって捜すんだ。親衛隊がこんな"ミッション・インポッシブル"を押し付けられていたなんて初耳だ。お貴族様相手の仕事はとても大変である。しかしランディは隊長らしく国王に侍っていればいいのだから恐らく迷子探しに駆り出されることはないだろう。

近衛の方は副官ヨシュア中佐と参謀長バリー中佐に任せてはある。ただし近衛はトップダウン方式を採用しているから、どうしてもランディの判断が不可欠になる。
何事もなければ今後2ヶ月、日に何度もパリとヴェルサイユを往復する事になる。
朝、近衛で指示を出してからヴェルサイユへ向かう。一応は留守を預かった親衛隊長のオフィスへ寄ってグリュヌ大佐から色々な報告を受ける。この"色々"の中に面白いものでも混ざっていればいいのだが、泰平の世の中、そんな楽しいサプライズは滅多にないらしい。

侍従長や女官長が持ち込んでくるものも同じ。金曜日に告げられた国王の"翌週の予定"は見事に午餐会と晩餐会で埋まっていた。どうやら初日にデヴィッドの安否を気遣ったシャルルに「知らねー」と応えたのが気に入らなかったようだ。ランチはともかく、これでは夕食にもありつけない。それどころか当日内に帰宅する可能性さえ薄い。尤もランディは帰宅はほぼ諦めてはいる。けれどシャルルとは旧知の仲だ。少しは気を遣えよと素直に思う。

人払いされた国王の執務室。そこでシャルルはランディに向かい呟く。
「ここにいる限り、相当暇そうだね」
確かに。"そこにいる"事が仕事の全てだ。夜も寝ずに働いているが、ここではただ、ヒマだ。
「こんなところで昼寝してるくらいだし」
ウルセー。誰のせいだよ。ランディは耳を塞ぐようにカウチの上で寝返りを打った。
「そんなに暇ならレクチャーくらい受けられそうだ」
ランディの態度を気にもせず、シャルルは続ける。

ボルドワール侯爵家が創った幼稚園『St.ジョゼフ』は、今や巨大な学園都市に発展していた。それはランディがロクでもない……基、とんでもないマルチ天才で、息子の将来を想像しては悦に入ったリフェールがランディの為に様々な分野の施設を設けたからである。ところが親の心など知ったこっちゃないランディは早々に士官学校に行ってしまった。幸いな事にシャルルが残ったため優秀な教授陣は無駄にはならずに済み、結果的に『St.ジョゼフ』は新参であるにも関わらず"名門"と呼ばれるようになった。ここでシャルルは修士号を取得し、現在は融通の利くソルボンヌでホニャララ博士号取得に精を出しているらしい。
だが、国王ルイ・シャルルには後5年もすれば元帥杖と共に軍隊指揮権が転がり込んでくる。王としては定評はあるものの、それとこれは別物だ。喧嘩の方法ぐらい覚えてもらわなければ兵隊が何人いても足りはしない。

「だからさ、明日。ルマを連れてきてよ」
「ふっざけんな!」
跳ね起きた。いきなり血圧の上がったランディに対し、シャルルはお優雅にお紅茶をお召し上がりになっている。
「何で明日だ。何でルマだ。おまえ、此処を何処だと思ってんだ!?」
「王宮」シレっと言う。「宮廷のど真ん中と表現した方がお気に召すかな?」
余計に気に食わない。

ぷちっと ぶんこ
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