Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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宮廷は特に問題ではない。問題なのは、王宮には宮廷の役人が屯っているためにお役人に諂う貴族共が群がっている事である。諂うだけでなく就職活動にも余念がないが、コネ作りの定番『イロとカネ』は此処でも大活躍している。社交界での権勢を誇るためにも袖の下は有用と思われているらしい。戴冠式前は高官狙いの『高額賄賂』が役人のフトコロに流れ込み、財力のない者は妻や娘の一夜を貢いだと噂されている。結局シャルルが全ての人事を勝手に決めてしまったので全部無駄になったのだが、千年以上も秘かな伝統として繰り返されてきたせいで、性懲りもなく習慣だけが蔓延っているのだ。

大体が社交界に『不倫』という言葉はない。様々な大義名分の下"必要悪"延いては"美徳"とさえ受け止められている。妾や妾腹の数を自慢するオヤジもいればシューティングゲームのようにマダムやマドモアゼルを落としまくるお坊ちゃまもいる。旦那連れの貴婦人だって、その目的などわかったもんじゃない。何度も個室に連れ込まれた経験のあるランディは宮廷なんぞ俄か恋愛主義者の巣窟だと思っているのだ。

そんなところに何故『妻』なんて肩書きを持ってる恋人を連れてこなければいけないのか、哀しくて仕方ない。ルマには免疫がない(と、ランディは思っている)し、警戒心もない(と、ランディは思っている)。知らない間に悪い男にルマが何処かへ連れ込まれてしまったら、シャルルを殺さないでいる自信はない。特濃の青汁にカリウムでも染みこませた雑巾の絞り汁を混ぜて飲ませるぐらいの事はしたくなる。

シャルル暗殺計画(?)を幾つも思い浮かべて、隣を歩くルマを半ベソ顔で見る。
結局連れてきた。ルマには一応近衛の制服を着せている。
制服の方が色気がないと思ったのだが、此処へ来てよくよく見てみればスカートが短い。ロングブーツだから脛は隠れているけれど膝は丸見え。膝とは言え『足』である。その昔ヴィクトリア女王がセクハラ用語と認定した『足』である。何故足が見えているんだ、この制服は。毎日同僚の制服姿を見ていて何とも思っていないのに、こんな時には問題視だ。

「大丈夫よ」
ランディのベソ顔にルマが応えた。
「だって足が見えるよ」
「私の足に興味があるのは貴方だけよ、ランディ」
ニッコリ笑ったルマが可愛い。それだけでランディの目尻は無防備に下がる。
「そぉ?」
「そぉよ。特にシャルルには用はないわ」
「いつも言ってるだろ」歩きながらルマの手を取り、耳元で囁く。「ルマが呼んでいい名前は俺のだけ」

歩くときは前を見て、そして後ろを歩くエーリック大尉に多少は気を遣うべきであろう。でもランディにそんなマトモなことを望んでも意味はない。
ランディにとって目の前のルマは世界の全てなのだから。

部屋の前まで来ると侍従長が廊下で控えていた。ランディ達の到着を待っているのではない。シャルルがプライベートに部屋を使用しているからだ。
嫌な予感がランディの胸に湧き出す。室内に入り、中の面子を確かめた途端、ランディは半ば本気で帰りたくなった。奥のソファでシャルルの斜向かいに座っているのはデュカス大公。シルベーヌの父親である。
ついでに、手前のカフェテーブルではノルマンディの若き参謀ルシアーノ・ルシェンデ少佐が超不機嫌モードで煙草を吹かしている。ランディを認めて背中を向けるあたり、デュカス大公からひと通り尋問されたに違いない。

ぷちっと ぶんこ
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