Pot aux Roses...

□† 秘密 †
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「帰るぞ。寝られるうちに寝とかないとな」すれ違いざま、エーリック大尉を真っ直ぐに見て「大尉も帰るだろ? ついでだから家まで送ってくれ」
勝手に歩いてきたクセに迷惑な小僧である。


ランディの家は、セーヌの中洲シテ島とサン・ルイ島をくっつけて建てられた超セレブなアパルトマン(地上2階・地下何処までも増築中)の上部6フロアである。観光客が背景に選んでしまう地上階(ペントハウス)で、ランディは恋人ルマと2人でハニィラブリィに暮らしている。地下にパーティーホールを備えているが、年に3回ほどしか使われない。
パーティーを催すからには、駐車場も完備している。収容台数平置き4桁の途方もない空間。満車になるのは当然パーティーの時だけ。普段はせいぜい20台程度しか駐まっていない、殺風景な場所である。
ちなみに駐車場の階下から一般的ミリオネアの居住区だそうだ。

パーティーに招かれたお客様をお迎えする為のエントランスでランディは車から降りた。送ってくれたエーリック大尉を見送る振りもせずにズンズカと扉へ向かって歩き出す。イベントがあってもなくても、この家には警備員が至る所に常駐しており、このエントランス付近にも数人が配備されていた。厳つい顔つきのガードマンが、ランディの為に扉を開けながらランディと目を合わせて表情を和らげる。
「お帰りなさい、ランディ様」
ランディは軽く右手を挙げて、挨拶に代えた。
「奥様もお戻りになられてますよ」
午前中の悲劇を目撃していた彼はニコニコと笑っていた。
ポケットから時計を出して確かめる。まだ15時前。シルベーヌも案外早くルマを返してくれたものだ。つい頬っぺが緩む。
嬉しさに支配されたランディの頭の中で『10代最後(暫定)のデート計画(改訂版)』が着実に練り上げられていった。

逸る心とは裏腹に、居室までの道程は長い。
幾つも階段を上り、果てしなく続く廊下を歩き、何枚もの扉を通り、漸く《玄関ホール》に到着する。そこは確かに玄関である。そして実は駐車場から直通のエレベーターもキチンと備えられている。

何故それを使わないのかと問えば、答えは2つ。とりあえずは車から降りたエントランスと直通エレベーターホールが酷く離れていたからである。そして恐らくこちらが真の理由だと思うが、ランディはエレベーターのような《狭くて閉塞した部屋》が大嫌いなのだ。尤も、ひどい面倒臭がりでもあるから毎朝毎夕の通勤帰宅時にはシッカリとエレベーターを使用している。

玄関もだだっ広い。広大な中庭を正面に見ると左手側はゲストルームに続き、右手側が生活圏なのだと思われる。すぐそこにあるのは《お客様と寛ぐリビング》だと言うし。よくわからないのは玄関が《お客様が寛ぎ待ちをするロビー》として扱われソファなどが置いてある点だが、わからなくても支障はない。

中庭をぐるりと囲む廊下を進む。

《お客様と寛ぐリビング》は巨大な正円形の部屋で廊下も弧を描くようにカーブしている。リビングの扉は二つ。二つ目の扉が見えると同時に、これまた広大な空間が登場する。

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
† Pot aux Roses... †

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