Pot aux Roses...

□† 秘密 †
38ページ/76ページ


「しっかりして!」ジョディが叱咤と共に、強くランディの背中を叩く。「ここにいるのはルマじゃないわ」
ジョディに覗き込まれて、やっとランディは眩暈から解放された。
嫌な事を思い出していた。
「"これ"……?」
不信感を込めてバーロン大佐に向かう。
バーロン大佐は冷ややかに蹲る女を見ていた。「はい。一刻も早く此処から取り除いていただきたいのです」
「シルベーヌ! わかる!?」もう一度ダウンをかけてやりながらジョディが問いかける。「何があったの?」
言葉は何も返ってはこない。荒い呼吸に声が混じるだけだ。
「引き取れ? 取り除け? よくも言えたものだな」
ランディはミシェルに振り返った。先程と何も変わらずトロンとした紫煙を立ち昇らせて事の次第を見守っている。

こんなものを見せられるくらいならチェスにつきあわされる方がいい。ズカズカと歩み寄りミシェルの前に立った。睨みつけてもミシェルの諦念を隠さない視線とぶつかるだけだ。

「何がどうなって、こうなったか? そんな野暮な事は訊かねぇよ。けどな」凄い勢いでミシェルの胸元を掴んで引き寄せる。バーロン大佐の威圧的な制止が耳に届くが、構わず続けた。「自分が抱いた女だろ。それがこんな事になってんだ。俺なんか呼ぶ前に医者を呼べ!」
「ボルドワール大佐!」バーロン大佐もランディの腕を掴んで怒鳴る。「上官、ましてや元帥閣下への暴行は重罪です」
「何が上官だ!! 俺はこのロクデナシな親父に物を言ってんだ!」
「そこまでにしないと逮捕させていただきます」
「出来るモンならやってみろ。罪状は何だ。状況はどう説明する。それが出来ないから俺を呼びつけたんじゃないのか」
言葉を失い、バーロン大佐はランディから手を放した。
全身の震えが怒りの強さを訴えているようだが、その矛先をランディに向けるべきではない事もわかってはいるのだ。
「では……お好きになさればいい。ですが元帥閣下に危害を加えるような事があれば、その時はそれなりの手段を講じます。お忘れなきよう…」
「だってさ。有難い秘書だな、"元帥閣下"」はっと嘲笑して、振り回すようにミシェルをカウチから引き離す。「どういうつもりだ。あんたは"一代生物"だが、息子も息子の女も、当たり前の生きモンだ。これぐらいのことは考えつきそうなもんだろ」
ミシェルは口を歪ませて嗤った。
「おまえを呼んでいたぞ」
「言い訳になってねぇよ」
「あの苦しみの中で彼女が求めていた救いは、おまえの手だけだ」
聞いているだけで不愉快だ。殺意に似た欲求がランディの胸に湧いた。
「殴られたいのか?」
「気が済むならな」
自嘲したままミシェルは目を閉じる。
「ランディ!」
背中からジョディの怒声が飛んできた。
「そんな事をしている場合じゃないわ。早く医師に診せなきゃダメよ」そしてバーロン大佐に「お願いします。医局に連絡を……」
「出来ません」

ぷちっと ぶんこ
petit lettre
CLIB NOTE
† Pot aux Roses... †

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ