太陽
□《第五章》
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―――骨。
鹿鳴館に駆り出されたエキストラよろしく、慣れないドレスでギクシャク歩くあたしを、一気に凍りつかせたのは、色とりどりきらびやかなドレスのご婦人方でも、ステージで生演奏の管弦楽団でもなかった。
床に散らばる無数の骨。
食事の時も、あたし達以外の周りには、鳥や魚の骨が落ちていた気がする。
そうしている間にも、すぐ前のテーブルで立食中だった男性が、フライドチキンの肉を食いちぎり、ぺっとばかりに骨を投げ捨てた。男らしい。
「そういうマナー……なのかな」
「としか考えられませんね」
テニスコート二面くらいは優にあるダンスホールの中央に向かう。
人間の胃袋へと消えていった小動物の屍を越えなければならない。
足の下で物悲しい音がする。物騒な舞踏会だ。
あたしといえば、美形に囲まれる生活から解放されたにもかかわらず、中途半端な妙な気分だった。
人間ばかりの場所にいるのだから、もっとリラックスできていいはずなのに、どうもびくついて落ち着かない。
誰もが道を開け、優雅に膝を折ってお辞儀をする。
「ここまできたら腹を決めて、踊っていただかなくては」
「踊る!?無理無理!」
「そうはいっても、男性陣の皆さんは、誘いたそうにこっち見てますし」
うわ、本当だ。
あたしのことを見ている。中にはギラギラと獲物を狙う獣じみた眼をした人もいる。
「……踊れないよ」
「俺が教えますから、大丈夫」
コンラッドが目の前に立ち手を差し出す。
「お手をどうぞ、姫君」
本物の王子さまみたいだった。
いや、実際元王子だっけ。
コンラッドの手をとり、おそるおそる曲に合わせて踊りだす。
あ、足踏んだ。ι
その後も三回ほど足を踏んだ後に、曲がスローテンポになり、周りで踊っていた人達が密着しはじめる。
「チークです。まぁ、適当に揺れていれば大丈夫」
「揺れてれば、ね」
「だいぶ上手くなったから、誘われても大丈夫ですよ」
「……お世辞なんていいよ。相手の足踏んだら悪いから、やっぱりやめとく」
「勿体無いなぁ」
チークも終わり、隅に移動する。
ダンスより、美味しそうに並べられた料理やデザートを堪能しよう。
「俺は用事があるので、外しますが、すぐ戻ってきますから、動き回らないでくださいね」
「はーい」
コン……カクさんの背中を見送りながら、用事ってなんだろうとぼんやり思った。
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