太陽
□《第十章》
1ページ/24ページ
あのさぁ、有利。
助けてくれたのはありがたかったけど、僕は決していじめられっこなわけじゃないんだってば。
悪質な同級生に絡まれたのも初めてなら、カツアゲされたのも初めてだったんだ。
そもそもねぇ、成績命!だとか、高偏差値だとか。いい加減付き合いも長いんだから、固定観念で語るのはやめてくれよ。
確かに存在感薄いけど、肉体と精神を鍛えるべく、武道を習ったりもしてたんだから。
空手を、そのー……通信講座で。
とにかくっ、僕がどんな人間なのかなんて僕自身にだってよく解ってないんだから、勝手な推測はやめてくれ。
だいたいねぇ、自分が本当は誰なのかとか、そんなのは人類にとっての永遠の謎だろう?
だからこそ自分探しの本なんかが、ベストセラーになったりするんだから。
じゃあ試しに訊くけどさ有利。
きみは誰?
どうして生まれて、何のために生きてるの?
あぁっ、だから悩み込むなってば!
誰だって解っちゃいないんだからさ。
エンギワルーッ!
「おはようございます、陛下」
「おはよー名付け親。陛下って呼ばないで」
「すみませんユーリ。つい癖で」
朝から爽やかなコンラッドといつもどおりの会話を交わし、身仕度を整えて朝食を摂り、無駄に広い自室を出て執務室へ向かう。
幼馴染みの村田健の失恋記念でシーワールドに行き、イルカのバンドウくんと握手しながらスターツアーズして剣と魔法と美形集団の異世界に来てから、かれこれ四ヶ月近くが経ってしまった。
この国に来るのは三度目だから、もうそろそろ常連さんに昇格してもいい頃だと思う。
首尾よくとまではいかないにしても、どうにかこうにか問題を解決して、さぁいつでも帰れるぞと準備万端で待っていた。
なのに、帰れなかったのだ。
祐里でも優梨でも夕莉でもなく、あたしの名前が響きも懐かしい渋谷有利原宿不利で現役女子高生のあたしは、帰ることができず、日々をこの『血盟城』の中にある執務室で山のように積み重なっている書類とにらめっこだ。
そう、どこにでもいる女子高生だった渋谷有利は、十六歳目前にして一国一城の主にされてしまったのでした。
しかもそんじょそこらの王様ではない。
ごく普通の背格好でごく普通の容姿、頭のレベルまで平均的な女子高生だったはずなのに……。
なんと、魔王だったのです。
→