太陽
□《第六章》
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いやに長い『ちょっと』を登り切ると、確かに休憩所はそこにあった。
コンラッドが金髪碧眼の女将らしき人に、飲み物とお菓子を注文する。
出されたのはクッキーと紅茶。
コンラッドとヨザックは涼しい顔で白磁のティーカップを口元に運んでいるが、あたしとヴォルフラムは指先も震え、飲み物をすすり込む気力もない。
盆を掛けて立ったままの美人女将は、お元気さん二人とぐったりさん二人という妙な団体に興味津々で、一番声のかけやすそうなあたしに尋ねた。
「あのね、お客さん、ご存知だとは思うんだけどもね。祭りの神輿が出発すんのは、ここじゃなぐって隣の山なんだどもね」
「えっ!?ここはお祭りと関係ないの!?」
「休火山はお隣の山だよ。ここは温泉宿が四、五軒あっだけで、それだってうちんとこでおしまいだけども」
店から数十メートル離れた奥に、ひなびた感じの建物がある。
「ちょっとォ、あたしたち間違えたらしいよ!?下山してもう一度チャレンジだなんて、あたしはまだしも………」
カップを両手で握ったきりのヴォルフラムは、虚ろな目をして動かない。
「ヴォルフなんかもう別の世界にイッちゃってるし」
「間違えてませんよ。用があるのは隣の神殿じゃない」
「え、じゃあ観光協会で配ってたパンフの、パルテノン神殿みたいなとこには行かないの?」
「見たかったんですか?それは申し訳ないことを」
コンラッドはカップをソーサーに戻した。
ヨザックは幼馴染みの言葉に頷きながらも、焦げ気味のクッキーをかじり、熱量の補給に余念がない。
「休火山から駆け降りる炎の神輿なんかに興味があるとは思わなかったんで、俺達が用があるのはこの山の頂上。勇壮な火祭りじゃないんです」
炎の神輿……なんかちょっとそっちも見たくなってきた。
「お客さん、山の上に行ってもどうしよっもないよ!」
女将が色を失った。
「頂の泉はあれ以来、閉鎖されてっし、他に見るようなもんもないし!
確かまだ釣り堀は残ってるけどもね」
「あれ以来ってなに?何かあったのか」
彼女はちらっとコンラッドの方を窺った。
あちらが保護者だと判断したらしい。
「十五、六年前の夏の夜に、天から赤い光が降ってきたんだけども。
そいづが頂の泉に落っこって、泉は三日三晩も煮え立ったんっす」
「隕石だったの?」
女将は大袈裟に首を振り、意味もなく声を潜めた。
「………魔物だったんっす」
「魔物?」
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