太陽
□《第九章》
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「……う〜、いたた……」
「あ、起きた」
「あんた、大丈夫かい?」
薄い膜がかってぼんやりとした視界には、一つだけの小さな窓から、明けかけた薄紫の空が見える。
それをいきなり遮って、覗き込んでくる顔、顔、顔。
「可哀想に、何か薬を打たれたんだね。あら、随分と若い子だこと」
「ほんとだ、若ーい。お肌もほっぺもすべすべツルツル!」
細くかさついた手で頬を撫でられる。
「でもさ、寄場預かりにされたってことは、この子も……」
「あんたたち、もうすぐ夜が明けるんだよ!少しでもその子を休ませてやらなきゃ」
年長者らしき凜とした声が、集団の後ろからかけられる。
彼女が手近な寝台を指すと、素早くそこが整えられた。
四人くらいの女性を呼んで、あたしを横たえるように言ってくれる。
ろくに顔は見えないけれど、てきぱきと人を動かす様子からすると、どうやら凛々しい声の持ち主は、この小屋のリーダーらしかった。
ベッドというよりも寝棚だった。板に薄い布団が敷いてあるだけの簡素なもの。
「あのー、夜分に申し訳ございませんが、ここはどういった施設なんですか?」
恐らく年上の女性なので、可能な限りの敬語で訊いてみた。
「ここは神や国に背いた女達が、何もかもを奪われてゴミみたいに捨てられる場所だよ。
アタシたちみたいな咎人でも、法術士様のお使いになる、法石を掘る役には立つんだってさ」
言い慣れた皮肉を盛り込むが、すぐに世話好きそうな口調に戻る。
「あんたこそどうして、こんなところに?」
「ちょっと駆け落ちしたと勘違いされちゃって」
「駆け落ち者なのかい?じゃあそこで寝てるマルタと一緒だ」
彼女が顔を向けた隣のベッドには、薄明かりにくすんだ金髪の女性が、身体を丸めて眠っていた。
こちらに向けた背には、粗末な布の下に背骨が浮いて見えた。
「あの娘は女房持ちの雇い主と恋仲になってね。隣国へ逃げようと図ったんだけど、待ち合わせ場所に現れたのは恋人じゃなかった。相手の男は怖じ気づいたんだ」
マルタは胎児みたいに膝を抱えたまま、会話が聞こえても動かない。
リーダーらしき女性は吐息混じりに言った。
時代劇とかに出てくる牢名主にしては、彼女自身も若そうだった。
「そいつは恐らく、今でも街で悠々と暮らしてるよ。
マルタは生まれたばかりの子供まで取り上げられちまったのに」
「え、だって二人で計画したんだから、二人とも罰を受けるのが当然じゃないの」
「違うよ。たぶらかした女が悪いんだってさ。
男は、自分は騙された、こんな女とはきっぱり別れるって誓いさえすれば、それで無罪放免なのさ。」
「そんな……」
なんて不公平なんだろう。この国は、一体どんな基準をしているのか。
ふと左腕に違和感を感じて、左腕を見た。
手錠が外されている。
慌てて辺りを見回しても、やっぱりグウェンダルの姿はない。
「あ、あの。眉間に皺をよせた、無駄に威厳たっぷりで、無駄に背の高い魔族の男の人を知りませんか?あたしと手錠で繋がれていたはずなんですけど」
「あんたの相手は魔族なのかい?」
牢名主の女性は、一瞬目を見開いた後、気の毒そうに眉を下げた。
「きっと監獄にいるよ。お互いに別れると誓わなければ、女は寄場行き、男は監獄行きなんだ」
「Σかっ、監獄!?」
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