太陽
□《第十章》
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洋式トイレに流されるというアンビリーバボーな奇跡体験の後に、やたら顔のいい人達に取り囲まれて、今日から貴女は魔王なんですなんて告げられたら、誰でもこれは夢だと思う。
あたしもそう思った。
夢なら早くさめて、現実世界に戻してと眞王とかいう偉い存在に、祈って祈って祈り倒してみたりもした。
けれどもう、そういう段階は通り過ぎてしまった。
落ち込んでいる暇はない。サインしなきゃいけない書類は山積みだし、考えなければいけない問題も次から次へと湧いてくる。
会わなければならない要人の数といったら、行列のできる店かと呆れるくらいだ。
それらを弱音を吐きつつなんとかこなすあたしの姿に、教育係で王佐でもあるギュンターは、うっとりしたり涙を流したりと忙しい。
頭脳が平均的なあたしだから、ほとんどの雑事をこなしているのは彼自身なのだが。
少しずつ読み書きもできるようになってきた。今のところ優秀な三歳児程度だけど、習ってもいないような小難しい本のタイトルを、指でなぞっているうちにあっさり読めてしまったりもする。
英会話教材の宣伝にもあるように、いきなり才能が開化する日がくるのかもしれない。
灰色の階段をおりて中庭に出てみる。
朝の光を浴びて冬芝がきらめき、草の下には霜柱が立っていた。
「……寒」
吐く息が白い。
握った指先まで悴んでいて、澄んで冷たい空気を急に吸い込んだせいか、鼻の奥がつんと痛んで涙が出た。
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