べーこんれたす缶

□ぼ、煩悩!
1ページ/1ページ





今日、梵天丸様は元服される。静かに輝宗様を見つめるその端正な横顔に目頭が熱くなった。子供の成長は本当に早い。(俺は一体いくつだ)

一人離れでひっそりと過ごされていたとき、自分に心を開いて下さったとき、大人びた梵天丸様のたまに見せる子供らしい無邪気な笑顔。

この濃密な数年間。今、この元服の儀を見守る誰よりも自分は一番近くにいた。誰よりも多くの思い出を積み重ねてきた。それらが頭の中で、ぐるぐると、走馬灯のように駆け回って、嗚呼、梵天丸様!



「…な、なに泣いてんだよ小十郎。」
「政宗、小十郎は感動しているんだよ。」
「梵天丸様!ご立派でした…!この小十郎、感無量でございますっ」
「小十郎。これで顔を拭きなさい。」
「お前大袈裟すぎ。それに」



梵天丸じゃない、政宗だ。


そう言って妖しくも美しく笑ったその姿は後の、独眼竜そのものだった。




 ***



「ぼ、」


瞬間、鋭い隻眼がギロリとこちらを睨んだ。


「…ま、政宗様。」
「何だ」
「朝餉の準備が整いました。」
「……わかった。」



ドスドス、自分は怒っているんだ、と足を踏みならしながら廊下を歩く姿が微笑ましい。たとえその怒りの対象が自分だとしても。

元服されて“政宗様”になられてから数日。城の者はもう大分慣れたらしい、いつまでも梵天丸様と呼んでしまうのは自分だけだ。誰よりも梵天丸様の名を呼んでいたので、まだその癖が抜けない。



「小十郎。」
「どうされました、……政宗、様」
「何だ、その間は。」
「す、すみません。」
「いつまでも子供扱いすんな。」
「も、申し訳ありませぬ」



少し頬を膨らませて、唇を突き出した姿はまだまだ子供のようで。



「朝起きたら十くらい年とってたらいいのに…」
「いや、それは流石に無理かと…」
「何でだよ、何とかしろ小十郎。」
「すみません、小十郎ではどうしようも…」
「じゃあ小十郎が十若くなればいい。」
「…それも小十郎には無理でございます」
「お前だけ大人でずるい。」
「しかし、梵、政宗様」


慌てて言い直すが、時すでに遅し。
小十郎は地雷を踏んでしまった。踏む、なんて生温い表現じゃ語弊が生まれる。それはもう竜の逆鱗をグリグリと撫で上げてしまったような感覚。
ギロリと先程より三割増しの目力で睨まれ、会話もそこで終わり、ツンと外方を向いてしまわれた。


「梵天丸は死んだ。そんなんじゃお前取り憑かれるぞ」


不貞腐れながら、ぼ、政宗様はそう言った。背筋が震えたのは気のせい、だと思いたい。


小十郎が漸く睨まれなくなるのはそれから数日後。口もきいてもらえなくなった辺り、もう既に呪われている。


END

‐‐‐‐‐‐

パパンが出せたので満足です←

輝小は忠実だったんですよね!
…書きたい。←

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ