土曜の昼下がり。 「あのさー、こじゅーろー」 食後のコーヒーを飲みながら、ちらりと美しい左目が自分を映した。 「俺、欲しい物があるんだけど。」 …と、これはつまり、これから買いに行きたいという意味なのか。 空はどんよりと薄暗く今にも雨が降りそうで。今日は特に予定も無かったし、家でゆっくりしているのもいいかと思ったが、政宗様がそう仰るならば出掛けなくては。小十郎の甘やかし精神に火がついた。沸点が恐ろしく低いのだ。 「何が欲しいのですか?」 「瞬間接着剤」 「…はぁ瞬間接着剤、ですか?」 「あ、瞬間じゃなくてもいいんだ。 すぐくっつけたいけど、 時間を掛けた方が良い気がするからな。」 「何か壊してしまわれたのですか?」 「んー、別に?」 「何かを作られているとか?」 「いいや?あ、瞬間じゃなくてもいいから、強力な奴がいい!一度つけたら二度と取れないくれえ強力な奴!」 「あの、政宗様。一体接着剤で何をされるおつもりで?」 ふと、嫌な予感が頭をよぎった。悪戯好きな政宗のことだ。例えば、この家にあるリモコンというリモコンを全て机などにくっつけてしまう、だとか。椅子にべったりと接着剤を塗りたくる、だとか。真面目に勘弁して頂きたいような悪戯でもされるんじゃないのだろうか。 「政宗様、あの 空が泣き出しそうだった。 空も、泣き出しそうだった。 「俺の、手と」 「お前の手を、」 「ぴったりくっつけんだ。 二度と離れないように。」 ぽろりと雨が零れた。 空も我慢しきれずぽつりぽつりと泣き出した。 思わずその小さな体を抱き締めると小刻みに震えていたのがわかった。 「死しても貴方様を離したりしません。」 「嘘だ」 「いいえ、嘘ではありません」 小十郎は二回、嘘をついた。 それは嘘だった。 人はいつか必ず死ぬし、抱き締めあったまま生きていくことなど不可能だ。 政宗もそんなこと、わかりきっていた。 死んでも離さない。 なんて安い言葉。 どこにでも転がっているような ありふれた安い言葉。 それでもよかった。気休めであろうと、口に出すほかこの思いを伝える術などない。 END ‐‐‐‐‐‐ もっと甘い話に なるはずでした← |