べーこんれたす缶

□止まぬ雨がもたらすもの
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ずっと、ずっとずっと幼い頃から守られてばかりだった。


俺に見せないように、刺客を始末していたことも知っていた。

頬の傷も俺を庇った傷だ。

食事に毒を盛られた時だって、小十郎の適切な措置のおかげで一命を取り留めた。

母や、弟側についていた家臣。世間からの心ない言葉も、そっと俺の耳を塞いで、何も聞こえませぬ。とそう言ってくれた。

光を失った右目を切り取って、これからは自分が右目だと、死んでも守ると誓ってくれた。


小十郎は、いつだって俺を愛してくれている。



まるで雨のような愛。
柔らかく俺を包み込む、優しい雨だ。

それは今まで止むことなく降り続けている。与えられ続ける愛。
俺の心臓はいつも温かく濡れている。常に雨に包まれて、とても幸せな。いつだって、昨日より今日が、今この時が一番だと。きっと今日より明日の方が、と感じられる。嗚呼、とても幸福な日々。




「なぁ小十郎。」

「どうされました?」



頭が痛いと言うと小十郎は膝をお貸ししましょうか、そう言った。嘘だとばれている。本当に痛い時はいつだって、俺がそれを訴える前に床の準備を始めているのだ。



「…何でもない」

「そうですか。」



髪を撫でる手を止めて、小十郎は優しく笑った。横目でちらりと見上げる。心臓が、ぎゅっと狭くなった。


「雨、止みませんね」

「そうだな」



また撫で始めた手を掴むと、小十郎は不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。ぱさり、前髪が落ちる。お前、前髪降ろすとすっげぇcoolだな、知ってたけど。



「もっと悲しまれるかと思いました」

「…what?」

「雨ですよ。折角の御誕生日なのに雨なんて、貴方様ならきっと悲しまれると」

「そりゃ晴れてる方がいいけどよ。雨でも変わらず祝ってくれるみてえだし、別に気にしてねえよ」


小十郎の膝から頭をどけて隣に寝転ぶ。外に足を向けて、体を九十度動かした。


城内は今朝からバタバタとうるさい。城が揺れているような感覚。城の奴らが総出で夜の宴の準備をしているからだ。あまりにも皆が忙しそうにしているものだから、手伝うか?と聞くと、政宗様はじっとしてて下さい!!と怒られてしまった。 ったく本当に祝う気あんのか。

その後、一人縁側で拗ねているところに小十郎が送りこまれた。

小十郎は、俺の暇潰し兼見張り役らしい。



単調的な音をたてて雨が降る。徐々に雨脚が強く、また視界も悪くなる。雨露と草木の匂い、靄がかかって白くぼやけた世界。さっきまで聞こえていた足音や声も聞こえない。聞こえるのは、俺とお前の心音だけ。



「たまには雨も悪くねえな」


「何故です?」


「だって今なんか、この乱世に俺とお前、二人しかいないみてえだ




“ろ”を言う前に腕を引かれた。

“どうした”と問う前に唇を塞がれた。


一瞬。二つの唇が触れ合った後。小十郎のそれは、額、頬、鼻の頭、髪、そして右の目元へとキスの雨を降らせた。触れた所が熱くて、沸騰寸前の血液が身体中から顔に集まって。鏡を見なくたって顔が赤いことくらい分かった。



「なっ、なんだよ、いきなり!」


「すみません、貴方様が余りに可愛らしくて」


「ば、馬鹿!」


「でも、お好きでしょう?」


「…………………………………………嫌いじゃあない」






ざぁざぁ、と雨が降り注いだ。まるで二人を包み込むように。白くて、静かで、小さい世界は確実に、二人だけのものだった。









この雨が止むことはない。



END

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年の差カプの最大の萌え所は
余裕たっぷりの攻めと
余裕ない受けだと思うんです
(あれ、デジャヴ←)

かなり遅れましたが
政宗誕ってことで。
8月までに書けてよかった…

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