ずっと、ずっとずっと幼い頃から守られてばかりだった。 俺に見せないように、刺客を始末していたことも知っていた。 頬の傷も俺を庇った傷だ。 食事に毒を盛られた時だって、小十郎の適切な措置のおかげで一命を取り留めた。 母や、弟側についていた家臣。世間からの心ない言葉も、そっと俺の耳を塞いで、何も聞こえませぬ。とそう言ってくれた。 光を失った右目を切り取って、これからは自分が右目だと、死んでも守ると誓ってくれた。 小十郎は、いつだって俺を愛してくれている。 まるで雨のような愛。 柔らかく俺を包み込む、優しい雨だ。 それは今まで止むことなく降り続けている。与えられ続ける愛。 俺の心臓はいつも温かく濡れている。常に雨に包まれて、とても幸せな。いつだって、昨日より今日が、今この時が一番だと。きっと今日より明日の方が、と感じられる。嗚呼、とても幸福な日々。 「なぁ小十郎。」 「どうされました?」 頭が痛いと言うと小十郎は膝をお貸ししましょうか、そう言った。嘘だとばれている。本当に痛い時はいつだって、俺がそれを訴える前に床の準備を始めているのだ。 「…何でもない」 「そうですか。」 髪を撫でる手を止めて、小十郎は優しく笑った。横目でちらりと見上げる。心臓が、ぎゅっと狭くなった。 「雨、止みませんね」 「そうだな」 また撫で始めた手を掴むと、小十郎は不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。ぱさり、前髪が落ちる。お前、前髪降ろすとすっげぇcoolだな、知ってたけど。 「もっと悲しまれるかと思いました」 「…what?」 「雨ですよ。折角の御誕生日なのに雨なんて、貴方様ならきっと悲しまれると」 「そりゃ晴れてる方がいいけどよ。雨でも変わらず祝ってくれるみてえだし、別に気にしてねえよ」 小十郎の膝から頭をどけて隣に寝転ぶ。外に足を向けて、体を九十度動かした。 城内は今朝からバタバタとうるさい。城が揺れているような感覚。城の奴らが総出で夜の宴の準備をしているからだ。あまりにも皆が忙しそうにしているものだから、手伝うか?と聞くと、政宗様はじっとしてて下さい!!と怒られてしまった。 ったく本当に祝う気あんのか。 その後、一人縁側で拗ねているところに小十郎が送りこまれた。 小十郎は、俺の暇潰し兼見張り役らしい。 単調的な音をたてて雨が降る。徐々に雨脚が強く、また視界も悪くなる。雨露と草木の匂い、靄がかかって白くぼやけた世界。さっきまで聞こえていた足音や声も聞こえない。聞こえるのは、俺とお前の心音だけ。 「たまには雨も悪くねえな」 「何故です?」 「だって今なんか、この乱世に俺とお前、二人しかいないみてえだ “ろ”を言う前に腕を引かれた。 “どうした”と問う前に唇を塞がれた。 一瞬。二つの唇が触れ合った後。小十郎のそれは、額、頬、鼻の頭、髪、そして右の目元へとキスの雨を降らせた。触れた所が熱くて、沸騰寸前の血液が身体中から顔に集まって。鏡を見なくたって顔が赤いことくらい分かった。 「なっ、なんだよ、いきなり!」 「すみません、貴方様が余りに可愛らしくて」 「ば、馬鹿!」 「でも、お好きでしょう?」 「…………………………………………嫌いじゃあない」 ざぁざぁ、と雨が降り注いだ。まるで二人を包み込むように。白くて、静かで、小さい世界は確実に、二人だけのものだった。 止まぬ雨がもたらすもの この雨が止むことはない。 END ‐‐‐‐‐‐ 年の差カプの最大の萌え所は 余裕たっぷりの攻めと 余裕ない受けだと思うんです (あれ、デジャヴ←) かなり遅れましたが 政宗誕ってことで。 8月までに書けてよかった… |