えぬえる缶
□嘘つきの歌
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今日も今日とて狼少年は大好きな可愛いあの子に嘘をつく。笑って欲しい、そう思いながら嘘を歌う。
今日の歌は狼少年が憧れてやまない海の向こうの歌。
「あのね、ウソップさん。」
「おぅ、どうした?」
少女の髪が風になびいてとてもとても綺麗で、少年は少し怖くなった。そんなことには気付かずに少女の唇は更に言葉を紡いだ。
「ウソップさん。私…」
その後に続く言葉は言わずともわかっていた。毎日顔を合わせているのだから、薄々気付いていた。それに少女にも、嫌な言い方ではあるが勝算があった。本当に優しくしてくれて、嫌われているとは思えないのだ。
二人の声が重なった。
緊張して震えている少女の声がかき消され、少年の声が辺りに響いた。
「そ、そういう嘘はやめろよ、な!」
とても格好悪いと思ったが、言い逃げという形で少年は逃げた。とても速いとは言えないが彼なりの全速力で大きな屋敷から走り去った。
少女の悲しそうな瞳が狼少年を映していた。
本当に嘘だと思っているわけじゃない。少女が小さい嘘もつけない人間だということを少年はよく知っていた。少女のことが嫌いなわけてはない。むしろ大好きだ。好きだからこそ、幼い頃の母親のような悲しい思いをさせたくなかった。
海が、狼少年を呼んでいた。
海賊の息子として生まれたその日から
こうなる事は決まっていたのだ。
「ずっと、待ってるわ。ウソップさん。」
少女はそう呟いた。
彼女は嘘がつけない。今日も大きな窓を開けて、広い広い海を眺める。海賊船を探すように。
少年は今日も嘘をつく。
「寂しくなんかないさ。」
大きな波の音にかき消され、歌は消えた。少女には届かない。
END