しかいの缶

□ほんのう
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電池がありません
操作を終了して充電してください



画面にはおなじみの数行。部屋の真っ暗闇があたしの手のひらの中のものにぼうっと薄ら明るく照らされている。しばらく画面を見つめると、けたたましい音をたててケータイは息絶えた。自己主張の激しい奴め、そんなに喚くことが出来るならあと四文字打ち込んで送信するくらい出来るでしょう、頑張んなさいよ馬鹿。
充電器に繋ぐのも億劫で、静かに閉じて、ついでに目も閉じた。


あの数行と、あの五月蝿い警告音が、あたしは大嫌い。どうしようもなく嫌い。






気付けば日が随分高くなっていた。いつもなら朝から目覚ましが五月蝿いけれど、ケータイは今朝も鳴らない。開いて、閉じて、また開いて真っ暗になった画面と向き合う。昨晩よりも空っぽに思えて、何処かほんのちょっと焦りながら充電器を差した。あかりが灯っていくらか焦燥が和らぐ。が、無意識にボタンを二回押してしまって、またどん底まで落ちる。画面を流れる見慣れたテロップ“新着メールはありません”…わかってるわよそんなことくらい。空気読んでよ。何もなかったみたいに待ち受け画面で待ってなさいよ。

のそのそと階段を降りていくと、ママから耳に痛い言葉。何も無い日くらいいいじゃない、とは思っても口に出せない。出掛けるママの代わりに店番を任せられてしまった。やっぱり言えばよかった。
少し迷って、ケータイは部屋に置いたままにした。顔を洗って髪を結ってエプロン付けて、店先に出る。お客さんは来ない。勿論待ち人も来ない。今日はそういう日だと思っても部屋に残してきたものが、ちらりと頭を掠める。生ぬるい風が頬を撫でて、花は笑ってるみたいにゆらゆら首を揺らした。

定期的に、ケータイの電源を切ってそのままにしていたくなる。実行に移すことは最近少なくなった、電源を入れたときが辛いから。ツールに過ぎないものに踊らされている自分の滑稽なこと。あんなものが無くたって、繋がっているはずなのに。赤い糸なんてものがもしあるのなら、目に見えなくて本当によかったと思う。“見える”っていう威力が強すぎて、どうしたって欲が出てきてしまう。言葉を交わしたい、声が聞きたい、会いたい。もし見えなかったら、こんなにも頭の中いっぱいいっぱいにしなくてすむのにね。


あの数行と、あの五月蝿い警告音が、あたしは大嫌い。どうしようもなく嫌い。

あたしが“さ”と“み”と“し”と“い”を打ち込もうとしていたことを思い知らされるから。電話帳のあいつのページから画面が動かないことを思い知らされるから。発信と送信のボタンがとてつもなく重いことを思い知らされるから。
あたしがどれだけ乾いているのかを、思い知らされるから。

充たされたいのよ、いつだって。乾いて乾いて仕方がないあたしを、いつだって充たしていて欲しいから。



ずっと繋がれて居たいわ


‐‐‐‐‐‐

あさがこなーいまどべを
もとめてーいるのー
あたしのしょーどーを
つきうごかーしてよー

何か最近どんな文を書いても
最終的に林檎さんに
落ち着いてしまうのは
私が絶賛厨二だからかもしれない

ちなみにこの後
いのさんはシカさんから
電話が掛かってきて
一喜一憂して
またちょっと凹みます

私は夏休みが終わりそうで
またちょっと凹みます

20110822/椎衣

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