よろず

□千千
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脳髄を貫く様な恋の落ち方なんて、生まれて初めてだった

それなりに見栄えも良くそれなりに世間からの認識もある自分はそっち関係に困った事など無かった
代わりに、本気になれる相手にも巡り会えなかった


彼がジャングルへ同行すると聞いた時の胸の高鳴りは、丸で玩具が手に入る寸前の子供の様で
どうにも言い表し難い感情の坩堝に身を投じてしまいたくなる
闘いの最中とはまた別の、血沸き肉踊る感覚


ピュアなんかじゃないさ
其なりに大人だもの
食らわば骨まで


小屋が出来るまで自分の小さなテントに仮住いしている彼とは出来るだけすれ違う様にしていた
そうしなければ強制的に睡眠不足に陥るからだ
寝返りを打つ度に、小さな呼吸が響く度に
一晩中自制心と膝を付き合わせる事になる

好きだと言って、抱き締めて、キスをして、喰らって

そう出来たなら


「何だ珍しい」


突然聞こえた声に心臓が止まりそうになった
毛布にくるまり考え込んでいる内にいつの間にか彼が風呂から上がって来てしまったのだ


「何時も先に寝ちまうからなお前。ちぃと話でもしようや!」


毛布に手を掛けられ剥ぐ
全く、人の気も知らないでと内心ごちりながら振り返れば
そこにはしどけなく濡れ頬を上気させた思い人


『何でっ…髪っ…!』


「はぁ?あぁ、風呂上がりは何時もだぞってお前知らねぇか」


温かな湯で筋肉がほぐれたのか普段漂う張り詰めた雰囲気も無く、無防備に笑い掛ける彼に頭を抱えた
沸き上がる劣情をぐっと抑えて目を反らす


『話すって、何をですか…?』


「ん?じゃあアレだ!ほら、お前夜のお供とかどうしてんだ?」


アンタだよ
とは流石に言えない
好奇心剥き出しの目を曇らせてやりたい衝動


『別に、普通ですよ。雑誌とか、想像とか』


無難な答えを出せばさもつまらなさそうに唇を突き出す
可愛いんだけどね


「ターちゃんだとでも言うのかと思ったのに」


溢れた言葉に抗い難い破壊衝動が沸き上がった
彼は師だ
勿論大好きだがそれ以上に人間として尊敬し、ああなりたいと思っている
師に対する思いも、彼に対する思いも汚された気がした


『本当の事を言いましょうか?』


彼が顔を上げた刹那、思い切り唇に噛み付いてやった
初めは強い力で押し返していた腕の強張りが徐々に弛んでいく事に喜びを感じる


頭と腰を引き寄せ、逃げる舌を追い絡め、軽く食み強く吸う
小さなテントが卑猥な音で満ちていく


「ぷぁっ、ぺドっ、んっ、ふっ、ふぁ」


柔らかなベッドじゃなくて悪いけれど、そのまま馬乗りになり足の間に割り入る


『貴方ですよ。毎晩貴方が僕の下で鳴くのを想像しながら慰めていました』
『ここまで引き摺り出したんだ。責任、取って貰いますよ』


足で彼の急所を刺激しながら着衣の紐を一つずつ外して行く
小刻みな呼吸が徐々に色を滲ませた
露になった胸の飾りに吸い付けば、確かに欲を孕んだ声を上げる


『勃ってる…』


「ひぁっ!やっ、やめろっ…!」


大腿部に感じる熱は硬度を持ち形を成していた
舌先で乳首を押し潰しながら下履きの隙間に手を差し入れ直接性器に触れる


「ぃあっ!や、ひぃんっあぁっあっあっいくっ!だめっ!あぁっんあぁぁ!」


何度か擦り上げただけで太ももを震わせ呆気なく達した彼に驚きを隠せない
下履きを乱暴に抜き取り下肢を見れば、今だひくひくと震える其は精液にまみれながらも硬度を保っていた



『早漏なんですか?』


とろんとした表情が一変し、一気に赤く染まる
心外だと言わんばかりに顔を隠してしまった


「違うっ!人にっ、されるの久々だったからだ!断じて早漏なんかじゃねぇ!」


『まぁどっちでもいいですけどね』


手にまとわりつく精液を指に絡め後孔に押し入れ、気付いた


『初めてじゃなさそうですね』


凝縮する腸内は快感を求め蠢いている
頼り無く体を震わせ愛撫を受け入れる彼にも嫌悪の態度は見られない


『このいやらしい体で弟子でもくわえ込んでたんですか?大した師範だ』


初めてじゃないと知るや否や押し込んだ二本の指を乱暴に出し入れする
ひんひんと鳴く浅ましい体は胸を突き出し飾りを主張しているようだった
逞しい胸筋に赤い痕を残しながら舌を這わせる


「やっ!ちが、うぅっ…!はっ、あっぁん!ふっ、んぅぅ…!」


『何が違うんですか?こんなにぐずぐずにして』


ひんっ、と犬みたいに鳴いてだらだら先走りを垂らす
その姿に自然と喉が鳴る
膝裏を掴み、自分の物を宛がい捩じ込んだ


「ひぐっ、あっ、がっ、いたっ、いたっ、いっ…!ぺド、ろぉっ…!」


名を呼ばれた瞬間、身体中の細胞が一気に活性化した
アドレナリンの流れが逐一分かる程に感覚が研ぎ澄まれる
ばつばつと肉がぶつかる音と卑猥な水音が更に欲を煽った


『梁師範っ、すき、すきですっ…!』


「あっ、やらっ、いくっ、あっんぅぅっ、ひっ!」


腹筋を彩った白濁につられ後孔の最奥に種付ける
二三度腰を揺らすと拾った快感を持て余す様に甘く鳴いた


『すみません…』



少し萎えるのを待って自分のモノを抜き出した途端、罪悪感とか背徳感とか色んな感情が押し寄せる


頭を下げる自分と、バツが悪そうな彼
妙な沈黙の後大きなため息が落ちてきた


「気にすんな」


『気にします!だって、好きな人にこんな強姦紛いの事をっ…!』


好きな人
そのフレーズにまた顔を真っ赤にして口をパクつかせる
案外純な人なのだと知れば、また胸が踊った


「本気かよ…」


『嘘でこんな事出来ません!愛しています。貴方を』



真っ直ぐに彼を見据え告げれば、頭を抱え唸る
迷惑は百も承知の上だ
だが其よりも伝えた思いが先走る


「救えねぇ…。お前なら選り取りみどりだろうに」


『その中の一番が貴方です』


どんな女の誘いより、貴方の何気ない仕草の方がよっぽど蠱惑的だ


『ただ、初めてではなかったんですね…』


「あー…その、昔若い頃な…黒龍拳の奴等に、無理矢理」


躊躇いがちに呟いた言葉に数秒前の自分を叱咤した
聞いてくれるなと言わない彼の体を抱き締めてすいません、と囁いた


『私の物になって下さい。何よりも貴方を愛してみせる』


「あぁもう…好きにしろ…」


半ば諦めた様な口振りの中に潜む優しさ

悠久なる千里の道すがら
寄り道みたいに恋をしよう











END

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