Novel

□poker face
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「随分余裕が無いなぁ、ジャック?」

独特の音質の、茶化す声が投げ掛けられる。
顔を上げれば、成程……相変わらず気持ちが悪いくらい常日頃見る表情で笑ってやがる。

「仕方無いだろう。あんたの前だからな、ゼロ少佐?」

皮肉を込めた言葉を返し、片眉を吊り上げて笑って見せた。
とはいえ、恐らくは引き吊った笑みだろう事は容易に想像出来た。

深い色合いをしたテーブルの上で、一定のリズムを刻む指。
乾いた堅い音が静かに響く。

癖というわけではないが、若干の苛つきと焦りを外に逃がすための行為。

机に置かれたトランプカード。
二枚の内一枚だけ表を見せており、互いにJと刻まれていた。

余裕を称えた男の顔と、若干焦りを称えた男の顔と。

「中々フェアじゃないか……そう思わんかね?」
「勝っても負けても、か。」

ゼロがジャックを一歩リードしている。
九回の駆引きが行われていた。そしてこれは最期の勝負。

この賭けでゼロが勝てば、ジャックは負け。
そしてジャックが勝てば、引き分け。
ゼロが勝てば罰ゲーム、ジャックが勝ち引き分けになればそれは無かった事になる。

「そもそも、ここまで優しいルールの駆引きは無いだろう。」
「……まぁ、白か黒か灰色だからな。」
「二択以上ある勝負、実に楽しく望ましいじゃないか。」

確かにゲーム自体は楽しい。
だが負けている現状ではそうも言えないし、まして罰ゲームの内容があれだ。
今こうやって喋っている間も緊張と恐怖に苛まれている。


さぁ、御託は終りだ……覚悟は良いか?

一呼吸置いて告げられた運命の時間。
手元に在る裏返ったカードを見遣る。

「ああ。」

溜め息と共に頷き、トランプカードを手に取る。
そしてゆっくりと、表に向き直す。

こんな時に限って周りの状況がスローモーションに見えるのは何故なのだろうか。
ごちゃごちゃ考える中、どこか冷静な部分で思うことはとてつもなくどうでもいい事で。

焦っている部分では、祈る神なんて居ないが──生憎と無宗教だ──今だけは縋りたいし願いを叶えてくれと考えてるというのに。
虫の良い話だが。









「同じでないなら、私の勝ちだ。」

紙の捲れる音が響いたと同時に、静かにゼロが呟いた勝利宣言。

「はぁ!?」

そんな言葉に驚き、視線を当人に向ける……何時もと変わらない筈の表情が、どこか不敵なものに見える。

そして目を見張る───ゼロの手元のカードは、JとAだった。

「BLACK JACK.」

にやりと、何とも言えない色気を感じる笑みを浮かべて、勝負の終わりを告げられた。

「土壇場に強いのは私だったようだな。」
「うそ……だろ。」

愕然としながら、自らの手元を見る。
Jと10が、並んでいた。

「あと一歩及ばず、か。」
「……五月蝿い。」
「まぁ、本来ならば強い数字だ。堅実でもある。」
「負けてしまえば、元も子も無いじゃないか。」
「確かに。」

がっくり項垂れる俺の頭をぽんぽんと叩き、仕方無いじゃないかと耳許で囁やかれる。

震えた身体が、これから起こる事態への反応を伝えた。

まったく、自分でも可愛らしい限りの反応だ。

素敵な女性がこんな反応をすれば、俺は厭らしい笑みでも浮かべていただろう……今目の前でそんな笑みを浮かべているゼロの様に。

「今度は君の得意なポーカーで勝負しようじゃないか?」
「……からかうな、っ!」

項垂れ眺めていればそう返されて、酷く楽しそうな奴を睨み付けたら、唇にあたる柔らかな感触。

「……不満か?」
「万年ポーカーフェイスな奴に得意もクソも言われたくない。」

もういいから……そう言えば嬉しそうに笑うもんだから、思わず頬が熱くなったのは言うまでもない。




END
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