Novel

□新年抱負
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休憩がてらに寄った喫茶店で珈琲を啜りながら、ぼんやりと人の波を眺める。

普段は人通りの少ない此処も、今や足音さえも直ぐ溶けてしまう位には賑やかだ。


「大晦日、ね。」
「……。」


買い出しの為に外に出たはいいが、感覚のズレが生じて今日は何の日かすっかり失念していて。
街中の喧騒を長いこと味わっていない俺には相当酷な話で、案の定人酔いしてしまった。

そんな中、向かいで眉間に皺を寄せて不機嫌を隠しもしない顔は酷く恐ろしい。

無理矢理に買い出しに付き合わされた挙句、こうやって柄にもなく喫茶店にまで付き合わされた訳だから、当然と言えば当然だが……


「……すまん。」
「……五月蝿い。」


向かいに座る奴に謝れば、軽くふてくされた様に小突き返される。

今日はお互いに機嫌が余り宜しくない。
何時喧嘩に発展するやら……考えるだけで、正直ゾッとする。


───チカチカと光る電飾に、親子連れや恋人達が行き交う通り。
あとは店という店全てが派手に装飾している。

状況が派手なだけに、騒がしいのに更に騒がしく感じさせる……鬱陶しい限りだ。


「本当にすまないと思ってる……けど、そんな顔するなよ。かなり恐い。」
「……知ったことか。」
「おいおい……」


普段なら噛み付かんばかりに言い返してくる。
が、一睨みして溜め息を吐いただけで、これといった反応が返って来ない。


「……?」
「……」
「おい、リキッド?」


それどころか、黙ってしまった。


……暫くの間。


居たたまれない気持ちになって覗き込めば、ぐっと伸びてくる腕。


「いっ、てぇ!」
「……ふん。」


隙を突かれて、おもいっきり頬をつねられた。
思わず悲鳴を上げてしまう。
痛みもたまったもんじゃない。
その上、人は少ないとはいえ、店内で恥を晒したのはもう何と言えば言いか。


「やめ……リキッド!!」
「……やめない。」
「な、んで!?ふざけるんじゃ」
「ふざけてない。」


腕を掴んで外しにかかれば、逆に腕を掴まれる。


「……う、っ!」
「貴様には、これくらいが丁度良い。」
「……何でそうなる……!」


奴を睨もうと目線を合わせると、真剣な蒼とかち合う羽目になる。


「こんな賑やかな日に辛気臭い顔をするからだ。」
「っ!」
「図星、だろう?」


悪戯小僧の様にニヤリと笑って、つねっていた頬と腕を離す。

そして素知らぬ顔で珈琲に口を付けていた。


「……8日前からだ、貴様が妙なのは。」
「……。」
「まぁ、粗方理由は解るがな。」


上から目線と言うわけでもなく、かといって無理矢理問い質すような訳でもなく……静かに聞いてくる。
不機嫌と思っていた低い声は、常と変わらず落ち着いていた。


「……葛藤するのも背負うの貴様の勝手だ。」
「!」
「だが、悲観するだけで何もしないのは嫌いだ。」
「リキッド……」
「変えられるモノじゃない。貴様が見てきたものも、紛れもない事実だ。」


だが、過去は過去だ……────

「……それに近いことを俺に言っておきながら貴様はその体たらくか。」
「……すまん。」
「謝るくらいなら前に進め、馬鹿が。」


珍しく優しく笑ったかと思うと、頭を乱暴に撫でられる。


「来年の目標……だな、兄弟?」
「……ちっとは根暗を明るくするよう努める。」
「良い心掛けだ。」


うざったらしく感じた外の景色が、少しましに見えた。




A happy new year...
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