Novel

□おはようと笑顔で。
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PC画面の光だけが、手元を照らす手掛かりと言える。
物言わぬ情報を探しだし、拾い集めて手掛かりにする。そんな作業の繰り返し。
考えている事も何時もと同じ。

画面をスクロールして、また違う資料を導いて……見つめる先には悪足掻きに近いだろう内容の書かれたものばかり。


ぎしりと音を発てる愛用の椅子。
疲れ始めた目は若干の痛みを訴える。
なのに懲りもせずに同じ作業を続けた。


最早手のつけようが無くとも、手遅れだと解っていても、何か確証を得たかった。
───仮に治療法があっても、彼はそれを望むかは解らないが……否、所詮は自己満足の為に探しだしているだけ。

停滞の場と安堵が欲しいだけなのかもしれない。

現実を見ているようで、その実逃げている。
逃避行動。
解っているからまだまし。
解っているのに直さないから癖が悪い。

この状況において、そんなことは最早どうでもいい。

「……一人で何考えてるんだか。」

マウスの無機質なクリック音が現実を手繰り寄せる。

一呼吸置いて、マグカップの残り少ない珈琲に手を伸ばす。
暖かかった筈のそれは既に冷めきっていて、ほろ苦く感じる程度だったのに、苦さが増している様に感じた。

ぐるぐる渦巻く思考の余韻に浸りながら、傍らで眠る相棒の呼吸の音に耳を澄ます。
規則的なそれが、今だけ僅かな安心感を与えてくれる。

「何時まで、この幸せが続くのかな……」

溜め息を押し止めてぼそりと呟いたのは、不安と恐怖と緊張の塊───今でも抑え込んでいる想い。
彼の瞼が何時上がらなくなるか……底知れない恐怖と対峙している。
きっと本人の方がもっと怖い筈なのに。

毎日夜の暗闇の中で怯えて、紛らわす為に深いネットの海に潜って……そしてまた、いつの間にか明るい外の景色にハッとする朝を迎える。

もういい歳のおじさんがこんな事してたら、身体が持たなくなる。

以前、偶々夜中に目が覚めた彼に見つかって咎められたっけ。


「デイビッド、朝だよ。」
「……オタ、コン?」
「おはよう。」


掠れた声が、以前の彼とは違うことを嫌でも解らせられるし、日に日に衰えていくのだって、解る。

取り繕った笑顔の裏で、泣き出しそうな自分がいる。

僕と変わらない年齢で、何故こんな苦しくて悲しい思いを押し留めていられるのか……以前問えば、

『俺はそれでも満足しているから。
お前やサニー、他の奴らも居るから。』

と……そしてやっと時間が動き出したからだと、言った。


「おはよう……と言いたいが、また徹夜か?」
「あー……まぁ、ね。」
「無理をするなと言っただろう?」


苦笑いを浮かべて軽く小突く彼は、以前より穏やかになった。
表情が豊かになった。
張り詰めたような、緊迫した空気が嘘の様に消えた。


だからより一層、辛くなった。



お願いだから。
お願いだから、この日々を奪わないで。
この日々を続けさせて。


「……善処するよ。」
「そうしてくれよ。」


その笑顔に、痛みを感じないようになりたいんだ。




end
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