Novel
□My Funny Valentine
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可愛い息子の(とは言えとうに二十歳を越えているが)待つ家に帰るのは、毎度の事となりつつある。
ネイキッドは今日も何の違和感も無く日常を過ごして、美味い飯にありつこうと帰路につく。
「ただいまぁ……ん?」
間延びした声で帰宅を報告し、リビングに入っていけば……見慣れない物がテーブルの上に置かれていた。
箱だ。
厳密には、綺麗な花柄の包装紙に包まれて、可愛らしい赤いリボンで装飾された、彼の手より少し大きめの箱。
「んー……?」
────今日は誰かの誕生日だったか?
男所帯の為に質素な部屋の中では、それはあまりにも華やかだからやけに目立つし嫌でも目につく。
謎のプレゼントの前まで歩みより、眉間に皺を寄せてあーだのうーだのと呻いてみても、何が何だかさっぱり検討がつかない。
────いい歳した男が、可愛らしいプレゼントを前に悩む。それもかなり真剣に。
間抜けな光景だ。
(そういえば……)
今日は職場でやたらチョコレートを貰って食ったような気がした。
(あ、もしかして……)
壁に掛けられたカレンダー。
日付欄を見れば、思い当たる行事に考えが及んだ。
「ふうん……」
事情を知っていそうな息子の姿が無いのを良いことに、例のプレゼントを持って笑った。
何時もなら出迎えくらいしてくれるのに、珍しく出て来ないという事は、もうそれ以外に理由はない。
「ソリッドー。」
大きめの声で呼ぶ。
返事が無い。
居ないことはまず有り得ない。
屋内に気配が在ることは確実だったから。
「ソリッドー、後ろに居るのはわかってるから……出てこい。」
二回目の問い掛け。
───ガタッ……ズダッ!
返ってきた反応は、何処かに躓いたような音。
また笑った。
気真面目でストイックに見えて、何処かしら抜けている。
何か突出した能力を持っている奴は、何処かしら抜けている。
自分もそうらしい。
血は争えない。
暫くして振り返れば、居心地が悪そうに、そろそろとした足取りで彼が歩いてきた。
「ただいま。」
「……お帰り。」
何時もの様に言えば、少し遅れて返される返事。
赤く染まった気難しい仏頂面が、もう全てを物語っている。
───……何時まで経っても可愛いなぁ。
思うや否や、無理矢理腕を引っ掴んで抱き締めていた。
「っ……離せぇっ!」
「あはは、いやだ。」
にへらと笑って応えれば、暴れていたソリッドは毒気が抜かれたのか気が抜けたのか、仏頂面が砕けて間抜け面になった。
抵抗するのは変わらず、だが。
「あれ、お前だろう?」
「……悪いか。」
目線を例のプレゼントに移して問えば、じとりとした目で睨み付けられる。
しかし今の状況じゃあ凄味など全く無い。
────素直じゃない子は苛めたくなる。
「何時の間に色気付いた事が出来るようになった?」
「……義理だからな。」
「上等。気持ちがあるだけ有り難いよ。」
「っ……もういい。」
諦めたのか、抵抗をやめて大人しくなった。
ぎゅっと抱き締めたら、漸く応えるように腕を回してくれた。
「逆チョコってヤツなのか?」
口にまた一個、放り込む。
「男同士で逆も糞も無いだろう。」
「確かに。けど、好きな奴から貰う物は美味い。」
甘いそれは、あと数十分ほどすれば直ぐに無くなってしまうだろう。
だが無くなるから良いのかもしれない。
「……どう致しまして。」
やんわりと微笑むその顔が見れるんだから。
(お返しは、一応考えとく)
(そこそこ期待して待つことにする)
end.